【東アジアのリアル】 「間に立つ存在」へ 松山健作 2019年2月1日

 2018年は、朝鮮半島の南北問題が目覚ましい進展を遂げる1年だった。それは日韓関係がさまざまな問題でこじれ、緊張関係が高まることと対照的であったかもしれない。しかし、このような進展は、一昨年前まで想像すらできなかった。韓国では、もういつ戦争が起こってもおかしくないとさえ、国民が感じていた。

 また、関係諸国からもそれを扇動する発言がなされていた。トランプ米大統領は「ロケットマン(金正恩委員長)が自らとその政権に対する自殺行為を行っている」と発言し、安倍晋三首相も「金正恩委員長は最も確信的な破壊者……必要なのは対話ではなく圧力である」と発言し、外圧を高めていた。

 しかし、昨年の平昌オリンピック以降、南北の歩み寄りにより非常に平和的な形で度重なる会談が進められた。一時は、いつ鉄の玉が飛び交うかと思われた状況から、急展開を見せた。38度線という見えない高い壁、離散家族問題、冷戦の緊張感というさまざまな問題は、南北首脳による「平和」という同じ目標によって、新たな段階へ突入した。

 昨年9月に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、北朝鮮に訪れたことを記憶しているだろうか。私はたまたま出張で韓国に滞在し、韓国民が文大統領の北朝鮮訪問に歓喜の声を上げていたことを喜ばしく感じた。しかし、一方で反共主義を掲げる保守キリスト教団体は、その訪問や大統領の姿勢を「共産主義への歩み寄り」として断固許さないとし、毎週のようにデモを繰り広げている。南北問題は、日本の植民地、そして朝鮮戦争が生み出し、南北の民衆に染み込んでいるイデオロギーの違いをどのように乗り越え、和解へと導くかという事柄を含んでいる。

 そのような南北関係の和解に向けて、韓国基督教教会協議会(NCCK)の総務である李鴻政(イ・ホンジョン)牧師=写真=は、就任当初からキリスト教が先頭に立って和解の務めを実践する意向を明確に主張し続けている。彼は2018年9月18日から20日まで、南北首脳会談に特別随行員として同行した一人である。

 李牧師は、北朝鮮訪問の際に新たに生まれる朝鮮半島の夢を見たという。それは、「『真夏の夜の夢』ではなく、植民地支配と分断の歴史を貫き、苦難の中で熱した完全なる解放と積極的平和に向かう夢である。その夢は、分断と冷戦の歳月がつくり出した民族共同体内の異質性を調和によって克服する中で、『第三の道』を訪ねる夢である。同族同士が争い殺し合った朝鮮戦争が残した傷と恨みを癒し、和解する夢である。大陸勢力と海洋勢力の角逐(かくちく)の場となったまま戦争の危機を日常のように生きてきた朝鮮戦争に終戦を宣言し、漢拏山と白頭山に至るまで非武装地帯を拡張する夢である」と。

 朝鮮半島をめぐる南北問題の和解は、それを求めるキリスト者の夢である。この夢は、南北のキリスト者だけでなく、日本のキリスト者においても共有されるべき事柄であろう。共に東アジアの平和を完全なものへと導く神の宣教の働きが強く求められている。李牧師は、南北の民衆が互いのイデオロギーに固執する対立から脱するために、キリスト者はその「間に立つ存在」として冷戦意識を平和意識へと転換する生き方を目指し、共に求めることを呼びかけている。

 この呼びかけに日本のキリスト者は、どのように応えることができるだろうか。今、朝鮮半島をめぐる南北問題の和解に向けて、日本のキリスト者の姿勢も同時に問われている。

松山健作
 まつやま・けんさく 1985年、大阪生まれ。関西学院大学神学部卒業、同大学院博士前期課程、ウイリアムス神学館、韓国延世大学神学科博士課程修了。現在、日本聖公会京都教区聖光教会勤務、同幼稚園園長、『キリスト教文化』(かんよう出版)編集長、明治学院大学キリスト教研究所協力研究員など。専門は日韓キリスト教関係史。

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