映画『牧師といのちの崖』公開 自殺志願者と向き合う藤藪庸一氏 〝死の淵に希望の光を〟 2019年2月1日

 和歌山県白浜町にある観光名所三段壁では、自殺志願者が後を絶たない。岸壁に立つ「いのちの電話」の看板には、1人の牧師の携帯電話に直結する番号が記されている。1月19日に封切られた『牧師といのちの崖』は、自殺を志願する者たち、そして彼らと向き合う藤藪(ふじやぶ)庸一氏(日本バプテスト教会連合白浜バプテスト基督教会牧師)の姿を描いたドキュメンタリー映画だ。ポレポレ東中野(東京都中野区)で21日に行われた藤藪氏と加瀬澤充監督による舞台あいさつでは、劇場を埋めた来場者が2人の話に聞き入った。

「すべて神様に委ねること」
監督が恩師の自死を機に白浜で共同生活

 藤藪氏は、死の淵とも言える場所から声を振り絞ってかけてくる自殺志願者たちの魂からの叫びに耳を傾け、救助に向かう。生きる戦いに疲れ果て、人生に絶望し、「自分がいつ死のうが誰も気にしない」と話す彼らを保護し、教会の会堂に寝泊まりをさせ、寝食を共にする。保護した後、生活を再建するために、彼らは藤藪氏が運営する仕出し弁当屋で調理を学び、仲間と共に働くことで人間関係の構築を学んでいく。

 自殺志願者だった人は、映画の中で「寂しかった。とても寂しかった。電話をかけて、やっとひと言『助けてください』と言った」と話す。

 日本の自殺者は年間2万1321人(2017年)。借金や人間関係のトラブル、精神的な病を抱えた人々など、理由はさまざまだ。教会で共同生活を送るうちに、多くの人がキリストを受け入れ、受洗するという。クリスチャンとして生き、共同生活を離れた後も、地元の教会へ通う人も多い。しかし、時に、信仰を持ちながらも持病や突然の不安から、再び死の淵へと足を向けてしまう人もいる。

 藤藪氏は、「一人ひとりと向き合う時、『もっとこうしてあげればよかった』『もっと話していればよかった』『共同生活から地元に戻さないで、もっとここで見ていてあげればよかった』などと後悔することもある。しかし、命を与えるのも取られるのも神様。すべて神様に委ねることが大切だと感じている。私がいつか天に帰る時がきたら、その答え合わせができると思う」と話す。

 加瀬澤監督がこの映画を撮るきっかけとなったのは、恩師でもあるドキュメンタリー監督、佐藤真氏の自死だったという。カメラを持ち、白浜に向かった加瀬澤監督は、教会で共同生活を送り、仕出し弁当屋で同じように働き、その合間にカメラを回すという生活を送った。

 舞台あいさつの中で、藤藪氏は「加瀬澤さんがいることが、あまりに当たり前になってしまっていて、映画を撮っているという感覚はなかった。本当に自然な僕の姿、共同生活をしている彼らの姿を撮っていただいたように思う。日本では、年間、多くの人が自死によって、命を落としている。私たちが手を差し伸べられるのは、そのうちのほんのひと握りの人々。それでも、絶望の中にいる人々に福音を伝えたい。死の淵にいる人々に希望を伝えたい」と話した。

 前日の舞台あいさつで加瀬澤監督は、「この映画を撮った後、人が助けを求めている時は助けたいと思うようになった」と話した。そこには、人が人と関わることを恐れなければ、おのずと希望ある社会になるとの期待が込められている。

 映画は、ラスト3分で衝撃の展開を迎える。鑑賞後、私たちは何を思い、何を祈るのか。余韻というにはあまりに大きな結末が待ち受ける。

藤藪氏(左)と握手を交わす加瀬澤監督

 映画『牧師といのちの崖』はポレポレ東中野で2月1日(金)まで上映後、2月9日(土)~15日(金)10時半、2月16(土)~3月1日(金)10時半、21時の延長上映が決まっている。詳しくは公式サイト(https://www.bokushitogake.com/)まで。

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