【宗教リテラシー向上委員会】 万博、SFの想像力、宗教の想像力 波勢邦生 2019年2月21日

 米国SFドラマ『スタートレック』最新作がおもしろい。『スタートレック』といえば、日本人を模したバルカン人のあの名台詞「長寿と繁栄を」である。舞台は22世紀から24世紀、人類は銀河系内の4分の1、150の星系に進出、惑星連邦と宇宙艦隊を形成した未来だ。

 現在放映中の「ディスカバリー」は、1966年以来のシリーズ前日譚である。先端技術実験船NCC‒1031 U.S.S.Discoveryに乗り、人類はさまざまな異星人や未知の生物と現象に出会い、衝突、和解、新発見を経験していく。

 シーズン2第2話「ニュー・エデン」では、第三次世界大戦中、未知の存在によって約5万光年離れた惑星へ飛ばされて救われた人類の末裔に、宇宙艦隊が200年ぶりに出会う。その出会いの場が「教会」だ。しかし、ステンドグラスには、天使と呼ばれる未知の存在を中心に、キリスト教と古今東西のあらゆる宗教的モチーフが刻まれている。さらに女性長老司祭「オール・マザー※」が共同体を統治する。科学のもたらす「滅び」からの「救い」を感謝し労働に励むこと、それがこの宗教の本懐となっている。

 しかし、その教会に属しながらも、粘り強く理性をもって宇宙艦隊と交渉したエンジニアのジェイコブ(邦訳名ヤコブ)だけが、人類滅亡回避の歴史を知り、結果的に動力源を入手して、暗い教会内を電灯で照らし、第2話は幕引きとなる。言うまでもなく、神と相撲した族長ヤコブの物語(創世記32章)が下敷きである。技術の裏付けなくしては啓示も宗教もない、と言わんばかりだ。ユングも真っ青である。

 ここに『スタートレック』が全世界で息の長い人気作品である理由が表れている。宗教を描きながらも、文明の底支えである技術革新、その技術を扱うためのリベラルな人間性を描くからだ。それは「SFの想像力」と言える。

 では、日本における「SFの想像力」はどこにあるのか。70年万博だ。個人的には「2020年五輪で東京が死んで、25年万博で関西が終わり、日本の息の根が止まる」と思っている。しかし、2月2日、奈良で開催された対談イベント「万博、GAINAX、アーギュメンツ」で、プロデューサー・武田康廣と批評家・黒嵜想の両氏は、70年万博の「原子力と科学による明るい未来」という希望が挫折した今、どのように絶望の25年万博を迎え、新たな「万博以後」を構想できるか、熱く語った。

 ベトナム戦争時、スタートレック大ファンのベトナム軍将校が、包囲した米軍小隊の指揮官名が「カーク(有名キャラクターと同じ)」であるがゆえに、彼らを解放して「長寿と繁栄を」と電信した、という逸話がある。武田氏がSF趣味から始まる世界平和の可能性として楽しげに語った話だ。日本のSFの想像力の一翼を担ってきた武田氏、絶望ネイティヴ世代の黒嵜氏が共鳴して未来を構想する姿に、正直ワクワクした。人々と世代を牽引する「SFの想像力」を身をもって知った。

 翻って考える。「宗教の想像力」はどこにあるのか。それは技術が進み続けても、なお残る、曖昧で不明な人間性を受け止めるところにあるだろう。二つの万博の間で「絶望」を語るのは容易い。2015年2月27日、スタートレック俳優で、ユダヤ系のレナード・ニモイは「人生は庭のよう、完全な瞬間は数多あれ、記憶に残るほかは束の間、長寿と繁栄を」と最後のツイートをし、先祖のもとに加えられた。ゆるやかに黄泉平坂(よもつひらさか)をくだる日本で、宗教の想像力は、この国のかたちの何を構想し、語れるのか。『スタートレック』のように新たな発見のために果敢に踏み出し「長寿と繁栄を」と言える明日を描けるだろうか。

(※紙面では「グレート・マザー」と誤植がありました。お詫びして訂正いたします。)

波勢邦生(「キリスト新聞」関西分室研究員)
 はせ・くにお 
1979年、岡山県生まれ。京都大学大学院文学研究科 キリスト教学専修在籍。研究テーマ「賀川豊彦の終末論」。趣味:ネ ット、宗教観察、読書。

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