【宗教リテラシー向上委員会】 「異端」の線引き 川島堅二 2019年3月11日

 伝統的教会による催しの案内に符丁のように記されるフレーズがある。「当教会は、統一教会、モルモン教、エホバの証人とは一切関係ありません」という一文である。

 「統一教会」「モルモン教」「エホバの証人」、日本のキリスト教界では言わずと知れた「異端」の御三家である。しかし「統一教会」は「世界平和統一家庭連合」へ名称変更してすでに久しい。「モルモン教」はその本拠地でオリンピックが開催されるほどアメリカでは市民権を得、日本でも全国紙の人物紹介欄に「モルモン教の宣教師として来日」という履歴が堂々と載る時代である。「エホバの証人」に関しては、その児童に対する体罰などを指摘する書籍が最近も出ているが、こうした虐待行為は「正統」とされる教会でも繰り返し起こっているから、この団体固有の問題とは言えない。賞味期限切れも甚だしいフレーズと言っていいだろう。

 教勢について言えば、創立者である文鮮明の死後、後継者問題で組織が分裂している「統一教会」の弱体化は明らかだが、「モルモン教」と「エホバの証人」はそうではない。現在、日本の「エホバの証人」は日本基督教団の信者数を10万人近く上回り、「モルモン教」も数年前ついに日本基督教団を追い越した。しかも「モルモン教」も「エホバの証人」もアメリカ合衆国に本拠地を置き、世界規模の宣教を展開している団体であること、また日本基督教団の信者の高齢化を考えると、今後ますますその差は大きくなり、ただ「一切関係ありません」と言って済まされないことは明らかである。

 むしろ伝統的な教会に求められているのは、同じく聖書をベースにしていながらどこが違うのかを丁寧に説明していく努力である。教義の点で言えば、イエス・キリストの神性を否定する「エホバの証人」は325年のニカイア公会議で「異端」として排斥された「アリウス派」に近いといえるだろう。神の子キリストによる原罪の贖いを説きながらも、神の啓示は聖書で完結せず、『モルモン書』をアメリカ大陸の古代住民に与えられた神の言とする「モルモン教」は、伝統的なキリスト教の立場からは認められないことになる。

 ちょうど10年前になるが2009年3月に聖学院大学を会場に「それは何であるのか――神学とは」というシンポジウムが日本基督教学会関東支部会主催で行われた。その内容は『神学とキリスト教学――その今日的な可能性を問う』(キリスト新聞社)として公にされているが、そこで東京神学大学の「神学」とICUや立教大などのキリスト教学校で教えられている「キリスト教学」の違いは何かということに関連して、たいへん興味深い議論がなされた。それは「統一教会」「モルモン教」「エホバの証人」の信者は東京神学大を受験できないが、ICUや立教大ではその信仰を理由に受験を拒否されることはない。ここに「神学」と「キリスト教学」の本質的な違いが表れているという議論である。

 では東京神学大で「神学」を学べる境界線はどのあたりにあるのか。フロアーにいた大住雄一氏(現・東京神学大学学長)は「土曜日をどうするかという実際的問題は残るが、セブンスデー・アドヴェンティストまでは基本的に認めている」と発言された。「セブンスデー・アドヴェンティスト」はキリストの再臨と安息日厳守を特徴とする教派で、礼拝も日曜日ではなく土曜日に行うことで知られている。しかし、同じ神学部なのに同志社大学では、受験者の思想信条は不問である。議論はこれ以上深まらなかったが、こうした線引きの根拠について、「東神大的」とか「同志社的」といった内向きの表現によらない普遍性のあるリテラシーの確立が求められている。

川島堅二(東北学院大学教授)
 かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

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