映画『こどもしょくどう』 日向寺太郎監督インタビュー 〝出会えば人は変わり得る〟 2019年3月21日 

 6人に1人の子どもが貧困状態にあるという先進国では突出して「相対的貧困率」の高い現代日本。この間、地域行政、民間企業の後押しもあり、ボランティアを中心に立ち上げられた「子ども食堂」は全国2000カ所に上る。遅まきながら、教会でも信徒が独自に活動を始めたり、会場や設備を提供したりするなどして関わる事例が増えつつある。

 映画『こどもしょくどう』は、ある家族との出会いをきっかけに子ども食堂が生まれるまでの過程を子どもたちの視点で描いた作品。「弱者に不寛容な現代社会でも、人が人と出会い、思うことによって、人は変わり得るということを描きたい」という監督の日向寺太郎さんに話を聞いた。

貧困は誰にでも起こる
「食べることは命、つながり、ぬくもり」

 企画が持ち上がったのは2015年の初夏。ようやく「子ども食堂」がマスコミで報道され始めた段階で、当初からその活動を広めるための「プロパガンダ映画」にしたいとはまったく思わなかったという。ドキュメンタリーとして撮るという方法もあるが、子どもたちの内面まで描くのは難しいと考え、あえて実在の子ども食堂を綿密に取材することも避けた。

 「調べるうちに自由な共同体だということが分かり、作中の子ども食堂も縛りがなく自由でいいと。貧困を取り巻く現実はとても重いので、それに縛られ過ぎてしまうとせっかく自由なはずの子ども食堂について、想像力が羽ばたかなくなるという危惧もありました」

 実際、全国に広がった子ども食堂の取り組みは多様。開いている回数もさまざまで、会場は自宅や公民館もあれば、教会やお寺もある。値段の設定も無料から数百円までと幅がある。脚本を担当する足立紳さんと話し合ううちに、子ども食堂そのものよりも、始めるまでの経緯を描こうという結論に至ったと日向寺監督。

 「子ども食堂を始めたのは思いのある善い人たち。それは否定したくない。しかし一方で、善い人たちだけが出る映画というのも面白くないわけです」と語る通り、主人公のユウトや両親もただの「善い人」としては描かれない。「助けたい」という思いを持ちつつも常に葛藤がある。

 「今日の社会は地縁、血縁、会社、共同体などといったセーフティーネットがない。網がないので一つ間違えると、簡単に落ちていってしまう。そうした中で、逆に新しい共同体を生み出そうという試みの一つが子ども食堂です。一人ひとりがどういう社会が住みやすいかということを考えながら、それぞれが違う役割を担って、違う活動をすることが重要だと思っています」

 作中、幸せだったミチルの家族がなぜ車中泊の生活に陥ったか、その背景には一切触れられない。そこにはどんな意図があったのか。「もちろん設定上は考えていましたが、回想シーンでどこまで描くかは最後まで悩みました。最大の理由は、特別な家族だと思ってほしくなかったんです。何か具体的に描いてしまうと、『ああいう親だから』と観る側が原因を求めてしまいます。明日は我が身かもしれないし、隣の人かもしれない。誰にでも起こり得るのが今の状況なんじゃないかと」

終始、子どもの目線で描かれる「相対的貧困」の現実

 現在の子ども食堂については、第二段階にあると見ている。「初めから自由だった分、豊かさも生まれ、さまざまな人がいろいろな形で集まる場になっている一方で、子ども食堂に行く子どもは貧困家庭の子だという差別も起きてきている。また、本当は必要としているのに子ども食堂に行けない子たちもいる。そうした新しい課題についても考えるべき時期に来ていると思います」

 カトリック信徒である監督の友人は、教会も積極的に関わるべきだと本作を応援してくれているという。「私にとってのキリスト教は賀川豊彦などのイメージが強い。宗教者の方からは、やはり神を信じているからできるという『無私』の姿勢を感じます。私自身は特定の宗教を信じていませんが、無神論でもありませんので、ある種の敬意は持っています」

 「食べることは命、食べることはつながり、食たわらまちべることはぬくもり」――歌人の俵万智さんが作詞した主題歌のリフレインが、鑑賞後も胸に残る。(本紙・松谷信司)

 映画『こどもしょくどう』は3月23日より東京・岩波ホールほか全国で順次公開。出演した俳優の松永毅さんが、「広め隊長」として都内近郊の子ども食堂を訪ねたレポート記事(https://bit.ly/2TMWYTB)も公開中。

【あらすじ】
 小学5年生の高野ユウト(藤本哉汰)は、食堂を営む両親と妹と健やかな日々を過ごしていた。一方、ユウトの幼馴染のタカシの家は、育児放棄の母子家庭で、ユウトの両親はそんなタカシを心配し頻繁に夕食を振舞っていた。ある日、ユウトとタカシは河原で父親と車中生活をしている姉妹に出会った。ユウトは彼女たちに哀れみの気持ちを抱き、タカシは仲間意識と少しの優越感を抱いた。あまりにかわいそうな姉妹の姿を見かねたユウトは、怪訝な顔をする両親に2人にも食事を出してほしいとお願いをする。久しぶりの温かいご飯に妹のヒカルは素直に喜ぶが、姉のミチル(鈴木梨央)はどことなく他人を拒絶しているように見えた。数日後、姉妹の父親が2人を置いて失踪し、ミチルたちは行き場をなくしてしまう。これまで面倒なことを避けて事なかれ主義だったユウトは、姉妹たちと意外な行動に出始める――。

Ⓒ2018「こどもしょくどう」製作委員会

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