【東アジアのリアル】 韓国の母なる教会の新会堂 李 相勲 2019年4月1日

 ソウルの中心地である光化門近くのオフィス街に位置するセムナン教会が新しい会堂における初めての礼拝を3月17日にささげた。

 斬新なデザインでひときわ目を引く新会堂は、地下6階、地上13階建て(延べ面積9649坪)の建物である。扇形をした大礼拝堂は、2200席を擁する規模となっている。新会堂に塀はなく、一般市民が自由に行き交うことができるようになっており、最上階にはソウルの中心地を一望できるコーヒーショップもある。また建物内には、南北統一後の世界宣教を視野に入れた、脱北者や外国人のための教育空間が確保されているほか、キッズカフェや母子室など子ども向けの空間も充実しており、小さな子どもをもつ若い親たちが礼拝に参加しやすいように配慮されている。

 キリスト教が数的な成長を見せてきた韓国においても、1990年に入ってその成長は停滞し、近年は教会に献身的であった世代が引退する一方、30~40歳代の教会員が減る傾向にあることが韓国教会の直面する問題の一つとして指摘されている。子ども向けの空間の充実は、そうした問題への対応策の一つであるとも言えるであろう。

 セムナン教会は、1887年9月に最初期の宣教師の一人であるアンダーウッド牧師の自宅で長老2人を含む14人の朝鮮人洗礼会員をもって設立された教会であり、朝鮮の長老教会としては最初の組織教会であった。そのような歴史をもつ同教会は、「韓国の母なる教会」との自負をもってきた。新会堂の外観は天と地に向かって両手を広げる母の姿を表現したものとなっているが、それはこうした歴史性を反映したものである。

 新会堂の設計に携わった慶煕大学教授で建築家のイ・ウンソク氏は、設計のコンセプトは「神の愛」と「隣人愛」の二つであったと述べている。同氏によれば、神の愛は外壁に温かみのある色や曲線を使用することなどを通して表現されており、隣人愛は社会に開かれた空間づくりを通して、また混み合う都市空間において息をつくことのできる空間を提供することで表現されているという。

 近年韓国の大型教会による巨大な会堂建設は、教勢の大きさを誇るためのものではないかとの批判を受けている。2013年にソウルにあるサランエ教会が地下7階、地上14階建て(延べ面積2万坪)の会堂を約300億円(敷地購入費は別途)で建てた際には、その是非をめぐって社会的な議論の的となった。セムナン教会の新会堂はそれには及ばないもののその建設費は約80億円に達している。聖公会大学教授のイ・ジョング氏はセムナン教会の新会堂に関しての発言の中で、教会の公共的な役割の重要性は認めつつも、公共性は建物の大きさやコーヒーショップの有無によって生まれるものではないとし、「教会は豪華な建物を建てるのではなく、地域内の多文化家庭や貧困家庭など社会的な弱者層を支援する本来の役割を優先すべきである」と述べている。

 大型会堂の建設に関しては賛否さまざまな意見があることであろう。また、日本の教会の現状を考えた場合、韓国教会のこのような現状は実感のわかないことかもしれないが、教会にとっての教会堂の意味を今一度考えさせられる事例ではないかと思われる。

い・さんふん 1972年京都生れの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、明治学院大学非常勤講師。専門は宣教学。

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