〝聖地〟から届ける復活のメッセージ ムニブ・ユナン氏インタビュー「人は希望がなければ生きられない」 2019年4月21日

 「宗教の違いを超えた癒しと対話を促す精力的な働き」を評価され、2017年に第34回庭野平和賞を受賞したルーテル世界連盟(LWF)前議長のムニブ・A・ユナン氏。このほど、福音のメッセージを世界に届けようとフォトブック『ROCKERS OF THE HOLY LAND』刊行のためイスラエル、パレスチナを旅した関野和寛氏(日本福音ルーテル東京教会牧師)がベツレヘム市内のホテルで面会し、イースターを控えた日本の教会のためにメッセージを受け取った。

誤情報が招く混乱

――現在、イスラエル、パレスチナにおける課題はどのようなことでしょうか?

 政治的な局面から言えば大きく分けて二つの選択肢があります。それは強国としてのイスラエルの道、もう一つはイスラエル、パレスチナ共生への道です。けれどもこの共生への道が今足止めされてしまっているのです。もう一つは経済の問題です。ヨルダン川西岸地区(パレスチナ・ウェストバンク)の30歳以下の若者の失業率は33%にも及ぶのです。これは非常に危険なことです。

 また、移民でないクリスチャンの人数の少なさも大きな課題です。パレスチナ、イスラエル双方とも移民のクリスチャンを除くとその数は約2%です。例えば、かつてベツレヘムの住民のほとんどはクリスチャンでした。しかし今では、90%がイスラム教徒で残りはユダヤ教徒、クリスチャンはごくわずかです。聖地においてクリスチャンがいなくなるわけにはいきません。

 それから、やはりアラブ社会においてはLGBTの問題も小さくありません。特にアジアにおいてLGBTの問題はタブーであり教会で話題にさえできず、それを隠そうとしてしまいます。ですがそのような方々は確かに存在しているのです。そしてこの問題は宗教だけの問題ではなく社会として取り組まなくてはならないことです。

――なぜそこまでイスラム教徒が増え、キリスト教徒が減ってしまったのでしょうか?

 家族形態の変化が大きな要因と言えます。イスラム教徒の人々は7、8人と多くの子どもを持ちます。けれどもクリスチャンの家庭はそうではありません。

――今回、旅の中で出会ったイスラム教徒の方々は、誰よりも親切に接してくれました。

 そうでしょう!? 私の大切な友人のほとんどはイスラム教徒です。何の問題もなく交友関係を持てています。しかし、メディアがイスラムの人々は危険であるという印象を植え付けてしまっています。例えば、大戦中は日本が悪い国であるという印象を持たれていましたが、今では日本は良い国というイメージを多くの人々が持っています。本当に問題なのは一部の至上主義者です。イスラム至上主義者、ユダヤ教至上主義者、そしてキリスト教系至上主義者です。そのような一部の過激派だけがメディアにクロースアップされてしまい、あたかも聖地では常に国家間、宗教間の紛争が起きていると誤解されてしまっています。しかし、昔からこの地ではユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒が共にお互い認め合い共生してきたのです。

 世界には〝Fake News(フェイクニュース)〟だけでなく〝Wrong News(間違ったニュース)〟もあふれています。このようなことが大きな混乱を招いています。

 明後日にはヨルダンの国王と会います。ヨルダンにおいて平和に貢献した人々を表彰する式に私も参加するためです。国王はキリスト教に寛容な方です。ヨルダンの土地を500エーカー(約2?、東京ドーム43個分)も提供してくれ、そこにルーテル教会を建てることもできました。その翌日にはユダヤ教のラビと対談することになっていますが、本当に楽しみにしています。そこには宗教間の対立などありません。一部の至上主義者が対立軸を生み出してしまっているのです。

 先日は600人のイスラム教徒の方々を相手にメッセージを語ってきました。皆、本当に快く私を受け入れてくれます。

神が私を守ってくれる

――ムニブ牧師のように国や宗教の垣根を超えて活動していると、さまざまな批判や迫害にさらされると思うのですが。

 批判されることなんて毎日ですよ(笑)。政治活動家からの迫害はよくあります。「お前がしていることは間違っている」などと言われることはよくありますし、「命を奪うぞ」などという脅しを受けたこともあります。よく「ボディガードをつけないのか」と聞かれますが、私のボディガードは、私の友人たち、そして神が私を守ってくれるのです。正義を行う時、そこに恐れはありません。そうやって生きる時、政治家たちも私の話に耳を傾けてくれます。

 先日もクエートで講演をしました。そこで私は「キリスト教はイスラム教よりも600年も長い歴史がある。エルサレムは私たちクリスチャンにとって大切だが、同時にイスラエルはイスラム教、ユダヤ教の聖地でもあると話してきました。するとサウジアラビア、カタールの王子が来て、自国に来て講演してほしいと言ってくれたのです。私は呼ばれればどこにだって行きますよ。

3日間食べなくても生きられるが…

――最後に聖地ベツレヘムから日本の教会に向けてイースターのメッセージをいただけますか?

 このイースターの時、ぜひキリストの足跡に従う生き方をしてほしいのです。キリストは人々の嫉妬により命を奪われました。ファリサイ派はキリストに妬みを抱き、ローマ当局もキリストの力を恐れました。そして弟子たちでさえもキリストを引き渡してしまうのです。けれども、キリストはそのような弟子たちと食事をしたのです。

 私たちの文化において食事を共にするとは深い関係性、共に生きるという意味があります。弟子たちはそれでも、キリストを十字架に引き渡してしまったのです。今日教会の中にあっても分裂や争いがあります。そして、そのような私たちこそがキリストを十字架につけてしまったのです。もしそのような問題を起こしていなかったとしても、キリストは私たちのそれぞれの罪のために死なれたのです。そして、罪人を赦され、敵さえも赦されました。このキリストの足跡を追っていく生き方を追い求めたいのです。

 イースターに皆さんに伝えたいことは、キリストが苦しまれた聖金曜日が本当に長かったということです。けれども、そのような中に復活の日曜日がやって来るのです。復活のキリストは言います。「嫉妬心を持つのではい。恐れるのではない。地位を求めるのではない。希望だけを持つのだと」と。

 問題の山積する世界において悲観的になる必要も、また楽観的になる必要もありません。その前にまず、希望に生きてほしいのです。キリストは十字架で死に3日目に復活しました。人は3日間食事をしなくても生きていける。3時間何も飲まなくても生きていける。けれども、希望がなければ3秒も生きていけないのです。皆さんがその復活の希望を運び、平和をつくり出す一人になってほしいのです。これが日本の皆さんにお届けしたいイースターのメッセージです。そして、私たちのためにも祈ってください。この世界において皆で共に生きることこそが道であり、他に道はありません。

――ありがとうございました。

 ムニブ・A・ユナン 1950年、エルサレム生まれ。フィンランドのヘルシンキ大学で神学の修士号を取得後、帰郷し牧師になる。98年から「ヨルダン及び聖地福音ルーテル教会」(ELCJHL)の監督を務める。2005年に、3宗教の最高指導者と協力してエルサレムに「聖地宗教評議会」(CRIHL)を創立し、諸宗教対話・協力による平和構築に尽力。10年には「ルーテル世界連盟」(LWF)議長に就任。現在、同名誉議長。

 関野和寛 せきの・かずひろ 1980年東京生まれ。日本福音ルーテル東京教会主任牧師。歌舞伎町の裏にある教会で日々、ありとあらゆる人々に揉まれ綺麗事ではない救いを伝え続けている。牧師だけのロックバンド牧師ROCKSのリーダーを務め、その活動はBBCなど世界ニュースにも取り上げられた。日本のキリスト教会の壁を越え、学校や施設で多くのトーク&ライブを展開。最近では札幌路面電車貸し切りライブや岩下の新生姜ミュージアムでのライブを行った。また2018年には香港ルーテル神学校牧会宣教博士号を取得、その活動領域を世界へと拡げていっている。2018年に『すべての壁をぶっ壊せ!-Rock’n牧師の丸ごと世界一周』(日本キリスト教団出版局)から刊行。

*『ROCKERS OF THE HOLY LAND』クラウドファンディング挑戦中。

撮影:緒方秀美

特集一覧ページへ

特集の最新記事一覧

TO TOP