【宗教リテラシー向上委員会】 ムスリムに「おもてなし」できるのか?(前編) ナセル永野 2019年7月11日

 ついに東京オリンピックの開催まで1年となった。数年前からオリンピックに向け、いわゆる「ムスリム対応」が各地で始まっている。一般のマスコミでは一面的な報道ばかりで、その内情までは報じられていない。そこで、今回(礼拝施設)と次回(食事対応)の2回に分けてムスリムの視点から現場を取材し、レポートしていきたいと思う。

 最初に紹介するのは都内にある某量販店だ。まず驚くのはフロアマップに書かれていた「ハラル参拝所」という文言。今まで数多くのイスラムに関する文章を読んできたが「ハラル参拝所」という表現を目にしたのは初めてだった。そもそも「参拝」は寺社仏閣に詣でる時に使う言葉であり、ムスリムの礼拝・宗教観とはイメージがあまりにも違いすぎる。また「ハラル」は「神に許されたもの/こと」という意味であるが、近年ではムスリム向けの商品・サービスに乱用される傾向がある。

 礼拝スペースはフロアの片隅にマットが敷かれた2畳ほどの広さとなっているが、周囲の声や館内放送が聞こえてしまい礼拝に集中することなど到底できない環境だ。ふと壁を見ると矢印が印刷された紙が貼ってある。おそらくメッカの方向を表したものなのだろうが、上空を指している矢印は何とも言えない脱力感を味わう。

 次に訪れた量販店は礼拝室として専用の部屋を準備している。この施設も礼拝所内にある「注意書き」が非常に面白い。日本なので「日本語」、そして「英語」は、ほぼすべての礼拝施設と同じように書かれている。不可解なのは、ほぼニーズがないであろう「中国語」や「韓国語」の表記がある一方で、肝心な「アラビア語」や最もニーズが高いであろう「インドネシア・マレーシア語」の表記がないことだ。

 また、この部屋を使う時はインターホンで係員を呼び出し、ロックを解除してもらわなくてはならない。さらに、室内に設置された防犯カメラも非常に気になった。正直、礼拝している姿を見られるというのは、あまり気分の良いものではない。このような異常とも思えるレベルのセキュリティーの理由は「テロ対策」なのだろう。もちろん、セキュリティーを軽視する気はないが、厳重すぎるセキュリティーは監視でしかない。関西の某所にある礼拝施設を利用した時はさらに厳重で、パスポートの提示を求められた。もちろん私はパスポートを持っていなかったので免許証を見せ、名前や年齢などを紙に書いて、ようやく礼拝施設を使うことができたが非常に手間だ。

 その他にも都内近郊にある複数の「礼拝所」をまわってみたが、どこも違和感のあるものばかりであった。これらの施設が、どのような経緯で設立されたかは不明だが「ムスリムの声は聞かずに設置した」という共通点があるように思う。

 日本はムスリムがマイノリティの国である。だからこそ来日するムスリムも、「日本に礼拝施設などを期待はしていない」という声も多い。個人的には「中途半端にあるよりはない方がいい」と思っている。もし本当に「おもてなし」をするのであれば、「ムスリムの意見を聞く」ということから始めるべきだろう。「おもてなし」のつもりが「恥をかく」ことにならないよう。残り1年での状況改善を望まずにはいられない。

ナセル永野(日本人ムスリム)
 なせる・ながの 1984年、千葉県生まれ。大学・大学院とイスラム研究を行い2008年にイスラムへ入信。超宗教コミュニティラジオ「ピカステ」(http://pika.st)、宗教ワークショップグループ「WORKSHOPAID」(https://www.facebook.com/workshopaid)などの活動をとおして積極的に宗教間対話を行っている。

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