外キ協「日本・在日教会共同声明」を発表 〝韓国のキリスト者・市民社会と建設的対話続ける〟 2019年8月15日

 外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)は74年目の敗戦記念日である8月15日、「私たちは日本の歴史責任を直視し、韓国のキリスト者・市民社会と建設的対話を続ける」とする共同声明を発表し、日本政府に送付した。声明発表の理由について同協議会は、日韓関係が悪化する中、「これまで40年近く韓国の諸教会と連帯し共同の取り組みを進めてきた」立場から、「傍観者としてではなく、主体的に関わっていく、そのためにまず発言していくことが求められている、と思うから」とし、各教会での冷静かつ建設的な議論を呼び掛けている。同声明は韓国語に翻訳し、来週中には韓国NCC(NCCK)や韓国カトリック教会をはじめ諸教会に送る予定だという。全文は以下の通り。


<日本・在日教会共同声明>

私たちは日本の歴史責任を直視し、韓国のキリスト者・市民社会と建設的対話を続ける

 韓国の大法院(最高裁判所)は昨年(2018年)10月30日、元徴用工4人が新日鉄住金(旧 日本製鐵)を相手に損害賠償を求めた裁判で、元徴用工一人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じた。この判決では、本訴訟の背景として日本の朝鮮半島に対する不法な植民地支配と侵略戦争遂行があり、元徴用工たちはそれに直結した日本企業によって反人道的な不法行為を受けたこと、また彼らの損害賠償請求権は1965年に締結された「日韓請求権協定」の対象外であり、同協定によっても韓国政府の外交保護権と個人の損害賠償請求権いずれも消滅していない、と判示した。また11月29日、三菱重工に対する損害賠償請求裁判で韓国大法院は同様の判決を出した。

 これに対して日本政府は、元徴用工の個人賠償請求権は日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決している」、この判決は「国際法に照らしてあり得ない判断」であり、「毅然として対応していく」と表明した(2018年10月30日・衆議院本会議)。そして今年7月4日の半導体3部品の対韓輸出規制に続き、8月2日、韓国を輸出優遇国リストから除外する閣議決定をおこない28日から実施される。

 しかし、これらの報復措置は自由貿易の原則に反するばかりか、韓国経済に打撃をあたえかねない敵対的な行為である。しかもこれは、そもそも戦後補償の意義を無視し、また日韓請求権協定と国際法への正確な理解を欠いた認識から行なわれている。

 これまで私たち日本にあるキリスト諸教会・団体は、韓国の諸教会・キリスト者と交流し、さまざまな共同プログラムを実施してきた。近年では日・韓・在日教会の青年たちが出会い、時には激論し、学び合う関係が作られてきた。また日本のキリスト教学校では、韓国のキリスト教学校との相互訪問を通して、生徒間の出会いと交流、率直かつ真摯な対話を重ねてきた。ところが今、それが延期され中断される事態となっている。

 私たち日本にあるキリスト教会とキリスト者は、このような事態に対して深い憂慮を覚え、私たちの考えと共通の願いを、ここに表明する。

1 問われているのは植民地・戦争被害者の人権問題である

 元徴用工たちは、朝鮮半島を植民地とした日本が戦時体制下における労働力確保のため、1942年「朝鮮人内地移入斡旋要綱」の官斡旋方式による連行、1944年に植民地朝鮮に全面的に発動した「国民徴用令」によって強制連行された人たちである。彼らには賃金が支払われず、感電死する危険があるなかで溶鉱炉にコークスを投入するなどの過酷で危険な労働を強いられ、提供される食事もわずかで粗末なものであり、外出も許されず、逃亡を企てたとして体罰を加えられるなど、きわめて劣悪な環境に置かれていた。これは、明らかに強制労働であり(ILO第29号条約)、重大な人権侵害であった。

 したがって、被害者が納得できる解決内容であることが必要である。つまり戦後補償とは、本来、政治問題でも外交問題でもなく、日本の植民地支配と侵略戦争遂行の下で、かけがえのない生命と人間としての尊厳を奪われた人びとの人権問題である、と私たちは確信する。

2 日韓請求権協定により個人請求権は消滅していない

 元徴用工たちの個人賠償請求権は、日韓請求権協定2条1項「完全かつ最終的に解決された」という条項によって、果たして消滅したのだろうか?

 韓国大法院は、元徴用工の慰謝料請求権は日韓請求権協定の対象に含まれていない、被害者個人の賠償請求権も、また韓国政府の外交保護権も消滅していない、と判示した。

 いっぽう日本の最高裁判所は、日本と中国との間の賠償関係について、外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能[裁判によって救済を求める法律上の能力]を失わせるにとどまる」と判示している(2007年4月27日判決)。

 すると、日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決した」とする日本政府の主張は、それが被害者個人の賠償請求権も完全に消滅したという意味であれば、日本の最高裁判所の判決への理解を欠いたものとなる。

 そもそも日本政府は,従来から日韓請求権協定により放棄されたのは外交保護権であり,個人の賠償請求権は消滅していない、との見解を繰り返し表明してきた(1991年8月27日・第121回国会予算委員会/1992年2月26日・第123回国会外務委員会/1992年3月9日・第123回国会予算委員会)。それにもかかわらず、自らの政府見解を変更したということになる。

 また、重大な人権侵害に起因する被害者個人の損害賠償請求権を、国家間の合意によって被害者の同意なく一方的に消滅させることはできない、という考え方を示した判例は、イタリアのチビテッラ村におけるナチス・ドイツの住民虐殺事件に関するイタリア最高裁判所や、同様の事件に対するギリシア裁判所の判決など、国際的に他にもある。これは、個人の人権侵害に対する具体的かつ効果的な救済を図ろうとしている国際人権法の進展に沿うものである。

 したがって、日本政府が「日韓請求権協定によって解決済み」と主張するのは巧妙な論点ずらしであり、また韓国大法院の判決を「国際法に照らしてあり得ない判断」と言うのも、無知による強弁である、と私たちは考える。

3 人権問題に対する根本的な解決を図るべきである

 問題になっている元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業である。この問題の本質が人権侵害である以上、なによりも被害者個人の人権が救済されなければならない。新日鉄住金と三菱重工は韓国大法院の判決を受け入れるとともに、人権侵害の事実と責任を認め、謝罪と賠償をしなければならない。

 中国人強制連行・強制労働事件である花岡(鹿島建設)事件、西松建設事件、三菱マテリアル事件では、訴訟を契機に、日本企業が事実と責任を認めて謝罪し、その証として企業が資金を拠出して基金を設立し、被害者全体の救済を図った(2000年花岡/2009年西松/2016年三菱)。そこでは、被害者個人への慰謝料の支払いのみならず、受難の碑などを建立し、毎年、中国人被害者とその遺族を招いて祈念式などを催すなどの取り組みをおこなってきた。したがって新日鉄住金・三菱重工もまた、元徴用工の被害者全体の解決に向けて踏み出すべきであり、それは企業としても国際的信頼を勝ち得ることになる、と私たちは考える。

 同様に、日本政府は日本軍「慰安婦」問題に対しても、国際法に基づいて真実をありのまま認め、被害女性たちの名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しに向けて、一歩を踏み出すべきである。

 「締約国[日本]は、『慰安婦』制度について法的責任を受け入れること、大半の被害者に受け入れられ、かつ尊厳を回復するような方法で無条件に謝罪すること、存命の加害者を訴追すること、すべての生存者(survivors)に権利の問題として十分な補償をするための迅速かつ効果的な立法・行政上の措置をとること、この問題について生徒および一般公衆を教育すること、被害者の名誉を傷つけ、あるいはこの事件を否定するいかなる企てをも反駁し制裁すべきである」(自由権規約委員会・2008年総括所見)

 韓国のみならず、いま世界は日本政府に、そして日本社会に対して、歴史責任に真摯に向き合うことを求めているのである。

4 日本政府の責務、私たちの課題

 私たちは日本政府に対して、韓国への輸出規制措置をただちに撤回することを強く求める。そして、かつて政府が行なった植民地支配・侵略戦争の犠牲者に対し、政府は人権侵害の事実と責任を認めて心から謝罪し、その証として被害者が納得する賠償を行なうことを求める。隣国同士である日本と韓国において、「未来志向の関係」とは、過去の歴史に向き合い記憶しつつ、互いを尊重することから始まるからである。

 私たち日本にあるキリスト教会とキリスト者は、韓国の諸教会・キリスト者との共同の取り組みを、さらに進めていく。なぜなら、国家間の葛藤と対立を克服していくには、日本と韓国の市民社会間のさまざまな出会いと、建設的対話の積み重ねが必要である、と確信するからである。

 そのためにも私たちは、日本の教会・キリスト者としての歴史責任と向き合っていく。それは、次のように確信するからである。

 「かつて自らの宣教が、神が望まれ、神ご自身が遂行しておられる宣教(Missio Dei)を映し出したものとなりえなかったことを、正直に告白することから始めなければならない。……土着の文化を破壊し、共同体を衰退させ、キリスト者の間においても分裂を生み出すような暴力的で帝国主義的な行為を引き起こした……福音の名を借りて行われた植民地主義的な暴力の罪を告白する」

 「私たちは過去の悪事を、それがあたかも起こらなかったかのように忘れることはできない。犠牲者に忘れることを強いることは、彼らの尊厳を再び貶めることになる。私たちは、決して忘れることはできないが、違った仕方で記憶することはできる。つまり、私たちが過去と加害者に対し、それまでと違った関係を築くことを可能とする記憶の仕方がある。それが、私たちがキリスト者として招かれていることなのである」(2005年・世界教会協議会世界宣教伝道委員会『和解のミニストリーとしての宣教』)

2019年8月15日

外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)
共同代表:金 性済(日本キリスト教協議会総幹事)
松浦悟郎(日本カトリック難民移住移動者委員会委員長)
秋山 徹(日本基督教団総幹事)
金 柄鎬(在日大韓基督教会総幹事)
李 清 一(関西外キ連)
吉高 叶(日本バプテスト連盟)

【賛同団体】
 外国人住民基本法の制定を求める北海道キリスト教連絡協議会(北海道外キ連)/外国人住民基本法の制定を求める神奈川キリスト者連絡会(神奈川℉外キ連)/外国人住民との共生をめざす中部キリスト教連絡協議会(中部外キ連)/外国人との共生をめざす関西キリスト教代表者会議(関西代表者会議)/外国人との共生をめざす関西キリスト教連絡協議会(関西外キ連)/外国人住民との共生を実現する広島キリスト者連絡協議会(広島外キ連)/外国人住民と共生を実現する九州・山口キリスト者連絡協議会(九州・山口外キ連)/日本カトリック難民移住移動者委員会/日本カトリック正義と平和協議会/日本キリスト教協議会 在日外国人の人権委員会/日本キリスト教協議会 都市農村宣教(URM)委員会/在日大韓基督教会 社会委員会/在日大韓基督教会  在日韓国人問題研究所(RAIK)/在日韓国基督教会館(KCC)/西南韓国基督教会館(西南KCC)/在日大韓基督教会西南地方会 社会部/日本キリスト教会 人権委員会/日本キリスト教会 靖国神社問題特別委員会/日本基督教団 北海教区 平和部門委員会/日本基督教団 北海教区 日本軍「慰安婦」問題の解決をめざすプロジェクトチーム/日本基督教団 道北地区 社会問題担当委員会/日本基督教団 旭川星光伝道所/日本基督教団 西中国教区 宣教委員会社会部/日本YWCA/全国キリスト教学校人権教育研究協議会(8月14日現在)

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