【東アジアのリアル】 深刻化する日韓関係と韓国キリスト教界の反応 李 相勲 2019年9月21日

 周知の通り、最近の日韓関係は険悪なムードに包まれている。今年7月に日本政府が韓国に対する半導体材料の輸出規制を発表して以来、日韓政府間の対立は深刻化している。その対立は、両国を訪問する旅行客の減少や民間および自治体間の交流の中止など両国民の間にも影響を及ぼしている。

 このような状況に対しては、韓国の市民社会同様、韓国のキリスト教界内にもさまざまな意見や反応がある。キリスト者の中にも不買運動を唱える者がいるが、それは「断日」を求めてのものではない。韓国のキリスト者の大部分は今回の対立が収拾され日本との関係が回復されることを願っていると考えられる。

 しかし、それがどのようになされるべきかについては、まったく異なる方向性をもった二つの主張がある。一つは、日本政府は今回の「経済制裁」を解くと共に、個人請求権が失われていないことを認めて元徴用工などの問題解決をなしていく必要があるとする主張である。この立場は、進歩・中道を中心に韓国キリスト教界内に広がっているように見える。

 もう一方は、反共主義を掲げる韓国基督教総連合会(韓基総)に象徴される韓国の保守的右派プロテスタント信者らの主張である(韓基総に関しては本紙2018年4月11日付掲載の本コラム参照)。それは、1965年の日韓請求権協定によって元徴用工などの問題は解決済みとの日本政府の見解に同意する。この立場の代表的な人物にオンマ部隊奉仕団のチュ・オクスン代表がいる。同代表は、「自分の娘が慰安婦として連れていかれていたとしても日本を赦すであろう」と発言して物議を醸した人物であるが、現在の日韓対立の原因をつくった「文在寅政権は日本政府に謝罪しなければならない」とし、8月15日には韓基総主催の文在寅弾劾国民大会に参加して文大統領を辞めさせなければならないと訴えた。韓国の放送局MBCのある番組の分析によれば、このような保守的右派プロテスタントの主張の根底には反共主義があるという。「悪」である北朝鮮とうまくやっている文政権は「悪」であり、その文政権は、北朝鮮に対峙するために必要な日本との協力体制を壊して韓国を共産化に導いているとの論理がその政権批判の根底にあるのである。

 日韓のキリスト教界の関係に目を移すと、日韓のNCCや聖公会など、これまで長年にわたる交流を通して信頼関係を築いてきた教派・団体が各々の声明書の中で日韓のキリスト者あるいは市民間の連帯の必要性を強調していることが注目される。交流も続けられている。

 今年8月に平和をテーマに韓国基督長老会ソウル老会と日本基督教団東京教区北支区による日韓青少年合同修養会が韓国で開催された=写真。今回で16回目を迎える同修養会の開催は危ぶまれもしたが、このような時期であるからこそ必要であるとの認識のもと予定通り開催された。同修養会に関わった韓国側のイ・チュンジェ牧師は日韓関係の現状に触れつつ、「キリスト者はこのような時期であればあるほどより熱心に行き来する中で平和をつくっていく者とならねばならない」と語っている。

 日本のマスメディアが「嫌韓」的な言説であふれ返る今日、そこから一歩離れ、現況に対してキリスト者として何ができるのか祈る中で冷静に考え行動する者でありたい。

い・さんふん 1972年京都生れの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、明治学院大学非常勤講師。専門は宣教学。

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