【宗教リテラシー向上委員会】 イスラエルのY(ミレニアル)世代 山森みか 2019年10月1日

 日本では高度成長やバブルを体験した年長世代と、就職氷河期以降の世代との感覚のギャップが話題になっているが、イスラエルでも世代間ギャップはある。

 最近、私たち中高年が集まると、自分の子どもたちとの世界観の違いを嘆く話になることが多い。具体的には、彼らは自分の好きなことしかしない、大学を卒業することに興味がなく仕事もお金も何とかなると思っている(実際何とかなっている)、食物は量より質、繊細な味を求め、菜食や環境問題に関心がある、物欲はさほどなく精神的な満足がほしい、結婚を急がないなどなど。

 彼らの祖父母は第二次世界大戦とホロコーストを生き延びるだけで精一杯で、次の世代は建国後の窮乏の中で堅実な生活を築くことに心血を注いだ。それに対してこの世代は何なんだろう?

 最近『Y世代――あたかも明日がないかのよう』(Tamar & Oz Almog著)というイスラエルにおけるこの世代についての研究がヘブライ語で出版され、ベストセラーになった。Y世代というのはミレニアル世代とも呼ばれ、米国では戦後ベビーブーマーの子ども世代を指す。この研究によると、イスラエルにおけるY世代は1980年から1995年のあいだに生まれた約80万人の人々である(うちの2人の子どもたちもそれに該当)。彼らは基本的に恵まれており、成熟が遅く受動的で、親たち世代のように勤勉に働きたがらない。嫌な仕事はすぐに辞め、結婚後も親の援助を受ける。そして、デジタルネイティブとして世界と直接つながっている。

 ここまではグローバルなこの世代と同じなのだが、イスラエルの特徴としては、絶え間ない暴力と緊張の時代に育ってきたことがある。もちろん親世代もいくつかの戦争を体験してきたのだが、戦争と比較的落ち着いた期間が明確に区切られていたかつてとは異なり、彼らが育ったのは、ラビン暗殺、インティファーダ、街角やバスでの頻繁な自爆攻撃、レバノン戦争、ガザとの絶え間ない紛争、そして分離壁建設後は自爆攻撃の代わりにナイフや車両での攻撃の危険に常時さらされる環境であった。この自分のコントロールがきかない「先の見えなさ」が彼らの感性に影響している。また「ポスト・シオニズム」、つまりイスラエルという国の存在自体が脅かされる危機感がさほどない世代なので政府や政治に対してシニカルだ。

 その一方で彼らはセキュリティ問題に関しては極めて現実的で、イスラエルとパレスチナの二国家共存には反対していなくても、政治的立場は右派あるいは中道勢力に近い。菜食や環境保護に関心があるし、右派の政治的主張には同調していないにもかかわらず、左派リベラルの理念だけでは現実の問題を解決しないと経験的に達観しているのである。

 今のイスラエルに好況をもたらしたのは、間違いなくこの世代である。彼らは世界より少し早く市民生活の日常で起きる暴力を経験し、物理的な軍備だけでなくサイバーやハイテク分野においてセキュリティ問題の解決をさぐることを余儀なくされ、実際に成果を上げてきた。そしてそれが今世界市場で認められ、イスラエルは豊かになった。それは上の世代にはできなかったことであり、今後の国の命運は彼らの働きにかかっていると言ってよい。

 彼らの、このある意味個人主義的な生き方がユダヤ人共同体の今後にどう影響してくるのか、親世代は期待及び一抹の不安と共に見つめている。

山森みか(テルアビブ大学東アジア学科講師)
 やまもり・みか 大阪府生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程修了。博士(学術)。1995年より現職。著書に『「乳と蜜の流れる地」から――非日常の国イスラエルの日常生活』など。昨今のイスラエル社会の急速な変化に驚く日々。

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