【東アジアのリアル】 台湾総統選挙と台湾基督長老教会 高井ヘラー由紀 2019年11月1日

 香港民主デモが激化し続ける中、来年1月の台湾総統選挙が刻々と近づいている。昨年11月の統一地方選挙では与党の民進党が国民党に大敗、総統の蔡英文は民進党主席(党首)を退き、再選は絶望的かと思われた。これはひとえに、蔡英文が「一つの中国」を拒絶して台湾の独立志向を譲らず、中国から圧力をかけられて経済が悪化し、民衆の支持を失ったためである。

 しかし、6月以降の香港の状況は、台湾住民をして、「一つの中国」ではないことで台湾が享受している民主主義の恩恵を再認識させた。これによって蔡英文は奇跡的に息を吹き返し、まず7月に民進党の総統候補選を制し、その後は国民党候補の韓国瑜を世論調査でリードし続けている。韓国瑜は昨年の地方選挙で民進党の牙城高雄市を制して市長になった鬼才の政治家であるから、蔡英文のリードがいかに香港効果によるものであるかが見て取れる。

 さて、台湾基督長老教会(以下、長老教会)は歴史的に民進党とのつながりが深い。10月14日にも、有志によって結成された「台湾基督長老教会国政訪問団」50人が総統府を訪れ、蔡英文総統に対して再選を支持する旨を伝えた(『台湾教会公報』10月20日号)。「一国二制度」を明確に否定し台湾の主権を追求してきた蔡英文政権を評価し、長老教会が1970年代から掲げてきた「新而獨立國家(新しい、独立した国家)」のビジョンを共に追求したい考えだ。このような蔡英文支持を一応、長老教会の主流的立場と説明することができよう。

 一方、今回の総統選挙をにらんで長老教会内にも新たな政治的動きが生まれている。本連載でも取り上げた「喜楽島(シーラーダオ=喜びの島)連盟」(昨年10月に大規模反中デモを主催)が、今年7月に「喜楽島連盟党」を新たに結成し、その党首に台南東門教会牧師の羅仁貴が選出されたのだ(『台湾教会公報』7月24日号)。羅仁貴は故高俊明牧師、陳水扁元総統、喜楽島連盟発起人でフォルモサTV前理事長の郭倍宏と親交が深く、長老教会総会議長、台南中会議長を歴任するなど優れたリーダーシップの持ち主である。筆者も個人的に面識があるが、温かく包容力があって飾らない、多くの人々に好印象を与える人柄だ。当初は牧師を続ける意向だったが、選挙が近づく中、10月末で正式に牧師を辞し選挙運動に専念することを表明した。

 喜楽島連盟党は、「圧倒的多数の台湾人民が願う『中国による併合反対、台湾国の正式名称採用、新憲法の制定、国連加入』を実現させること」を結成の宗旨に挙げている。「中華民国」を容認する蔡英文政権から一歩踏み込んだ姿勢で、無党派層や民進党に失望する若年層の受け皿となって、台湾の将来を切り開きたい考えだ。

 しかし、同じ独立志向である蔡英文に追い風が吹く中、なぜあえて新党結成なのか。実は羅仁貴は故高俊明牧師と同じく長老教会内の同性婚反対勢力を代表する牧師の一人である。公民投票で否決された同性婚合法化を特別法によって成立させた蔡英文政権に対して、相当の違和感があるのだろう。同性婚への抵抗感は長老教会内でもかなり根強い。その長老教会票が今回の総統選で果たして蔡英文に行くのか、あるいは喜楽島連盟党の擁する呂秀蓮に流れて票を二分するのか、甚だ気になるところである。

喜楽島連盟党の初代主席に選出された羅仁貴(左より6人目)

『台湾教会公報』7月24日号より転載

高井ヘラー由紀
 たかい・ヘラー・ゆき 1969年ニューヨーク生まれ。国際基督教大学卒、同大学院博士後期課程修了。恵泉女学園大学非常勤講師、明治学院大学非常勤講師などを経て、台南神学院助理教授。日本基督教団信徒派遣宣教師。

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