【東アジアのリアル】 成都と香港から見る「教会と国家」 松谷曄介 2019年12月25日

 中国・成都の代表的な家庭教会(非公認教会)、秋雨之福聖約教会に対する一斉取り締まり(2018年12月9日)からちょうど1年になる。王怡(ワン・イー)牧師(46歳)=写真下=をはじめ長老や信徒など100人以上が拘束されたこの事件は、中国の教会では「(成都秋雨)12・9教案」とも呼ばれている。

 日本語での「教案」は教会学校の教材を指すが、中国語では特に19世紀の排外運動の中で発生した教会に対する排撃・迫害事案を指す用語だ。再びこの言葉が使用されるようになったのは、この事件がもはや単なる違法集会に対する個別の取り締まりではなく、キリスト教そのものに向けられた国家的迫害の歴史の一環と考えられているからだろう。

 大半の信徒は逮捕後間もなく釈放され、王怡牧師の妻も今年6月に釈放されたが、11月末には長老の一人である覃徳富(タン・デーフー)=写真下=に対する裁判が行われ、教会内で非合法に大量の書籍を印刷・発行した「違法経営罪」で懲役4年の実刑判決が出された。王怡牧師の裁判はまだ始まっていないが、かけられている嫌疑は「国家政権転覆扇動罪」。これはノーベル平和賞を受賞した劉暁波(リウ・シャオボー、1955~2017年)と同じ罪名だ。もしこの罪名で正式に有罪判決が出されれば、キリスト教の牧師では初めての事例となる。50年代に三自愛国教会(公認教会)への加入を拒んだ王明道(ワン・ミンダオ)が「反革命罪」で20年近く投獄されたことを想起してしまうが、劉暁波が懲役11年だったことを考えると、王怡牧師にも同程度の判決が出される可能性が高い。そうなれば、公認・非公認教会を問わず、国家による教会に対するさらに大きな圧力となることは間違いない。

 場所は変わって、香港。12月8日には、再び大規模なデモが行われた。「一国二制度」が「一国一制度」になってしまうことに対する恐れが「逃亡犯条例」への反対運動に火をつけ、今年6月から半年にわたって繰り広げられた抗議活動を通して、香港市民は民主と自由を求める思いに目覚め、11月の区議会選挙での民主派の圧勝へとつながった。

 しかし、事はこれで終わったわけではない。国会にあたる立法会の選挙や行政長官の選出手続きにおいては、親中派が権力を握る構造は変わっておらず、中国政府が今後さらに香港政治に圧力をかけてくることも予想される。具体的に課題となるのは、「香港基本法第23条」の法制化だ。香港のミニ憲法とも呼ばれる基本法には次のように規定されている。「第23条 香港特別行政区は国に対する謀反、国家を分裂させる行為、反乱を扇動する行為、中央人民政府の転覆、国家機密窃取のいかなる行為も禁止し、外国の政治組織・団体が香港特別行政区内で政治活動を行うことを禁止し、香港特別行政区の政治組織・団体が外国の政治組織・団体と関係を持つことを禁止する法律を自ら制定しなければならない」

 これは通称「国家安全条例案」とも言われており、遅かれ早かれ法制化されることが目標として規定されているが、2003年に法制化の動きがあった際、50万人の抗議デモが起こり、香港政府は法制化を見送ることを余儀なくされ、今日に至る。

 今後もし基本法第23条が法制化された場合、中国大陸と同じような基準で「国家政権転覆扇動罪」が香港市民にも適応される可能性が出てくる。その時、香港の教会はどうなってしまうのだろうか。香港教会は、中国大陸の教会に対する中国政府の干渉や迫害が、やがて自分たちにも向けられる日が来るのではないかという潜在的危機を感じている。そのような状況下で、「教会は政治的に中立であるべきだ」と単純に言えるのかどうかで香港教会は揺れている。日本の教会にとっても、決して対岸の火事ではない。

松谷曄介
 まつたに・ようすけ 1980年、福島生まれ。国際基督教大学、北京外国語大学を経て、東京神学大学(修士号)、北九州市立大学(博士号)。日本学術振興会・海外特別研究員として香港中文大学・崇基学院神学院での在外研究を経て、日本基督教団筑紫教会牧師、西南学院大学非常勤講師。専門は中国キリスト教史。

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