【新春連続インタビュー〝志〟継いで未来へ】 教派超え情報のプラットフォームを 具志堅聖さん(日本聖書協会総主事) 2020年1月11日

 ローマ教皇来日の興奮が冷めやらぬ間に、新年早々きな臭いニュースが報じられ、重苦しい空気が世界を覆っている。これまでの歴史的教訓に学び、先人たちの志を継いで新たな歩みを始めようと決意する面々に話を聞いた。初回は、昨年末に日本聖書協会の新総主事に就任した具志堅聖さん。

ぐしけん・きよし 1965年沖縄県生まれ。幼いころからカトリック教育機関でキリスト教に触れ、学生時代にカナダに移住し、国籍を取得。また洗礼も受けて、北米のノースウェスト神学校、リージェント・カレッジ、ルーサー・ライス神学校などで学んだ。日本ではウェスレアン・ホーリネス教団、米国ではキリスト合同教会に所属し、牧会・伝道に携わる。2002~11年、日本福音同盟(JEA)の総主事。ハワイにあるマキキ聖城キリスト教会で牧師を経て、17年に同協会の副総主事に就任した。

多様な〝霊的旅〟の果てに
「エキュメニカルな視点で偏見なく」

──21年ぶりの新しい総主事ということで、今後どのようなことを目指していかれますか。

 一昨年12月に「聖書協会共同訳」を発行して、ちょうど1年が経過しました。スタンダード版が完成した時点で、今後の頒布に関わる基本的なものがそろったので、これからは商品開発をどう進めていくかを吟味しているところです。ただ、「文語訳」から始まって、「口語訳」「新共同訳」「聖書協会共同訳」と、すべてを販売している当協会としては、今後それらのバランスを考えていかなければなりません。「聖書協会共同訳」を軸に、ほかの訳の聖書もケアしながらやっていくことになるかと思います。

 また、デジタル化が進む中で、聖書という材料をどのように生かしていけるか。IoT(さまざまなものがインターネットでつながっていくこと)やAI(人工知能)によってサービスが大きく変わっていく中で、当協会もどう対応していくかが課題です。米国聖書協会をはじめ、聖書協会世界連盟(United Bible Societies)全体も同じ課題を抱えているので、そことコミュニケーションをとりながら対応していきたいと思っています。

──就任式で「永続性」ということを言われました。

 戦後、どの教派でも団塊の世代前後の方々が教会を支え、その10歳くらい上の世代がリーダシップをとり、教会形成をしてきました。しかし、数年前からその人たちが高齢化して引退し、その下の世代が数の面で追いつかなくなっています。もしかしたら、数だけでなく実力の面でも追いついていないのかもしれません。

 すでに閉鎖しなければならない教会も出ていると聞きました。あるいは、閉鎖したくとも、できないという状況もあるようです。これまでのような運営管理では教会を継続していくのが困難な状態があるのだと思います。その中にあって当協会としてどんな協力ができるのか、今後の課題の一つです。

 例えば聖書翻訳においても、30年後、同じようにできるかとなると、今回翻訳に関わった方々の意見を尋ねた時に難しい顔をされていました。学者レベルでも、後継者を育てるのに苦慮していると思われます。

 冗談半分で「次の聖書翻訳はAIかな」などと言ったりします。実際に聖書翻訳の現場ではすでにその実践的試みが始まっています。まだ聖書翻訳されていない少数部族の言語翻訳においてAIの導入は始まっているようです。もちろん、それをきちんと判断する言語学者はいますが、AIが入ることによって、これまで10年かかっていたものが1カ月ほどでできるという話を聞きました。聖書翻訳を続ける上で、AIは欠かせないものになると考えています。

──AIについていけない教会もあるのでは。

 高齢者の多い教会は、今までの形はなかなか変えられないと思います。それでも、週報などを定型化・簡略化し、牧師や信徒の手間を少なくできるようなサービスは必要だと思います。礼拝に役立つサービスを、教派を超えてできたらいいなと思っています。

 ただ、「教派を超える」というのがなかなか難しいところです。1970、80年代のように、まとめ役、またはパイプ役となるような、強い影響力を持つ人材が非常に少なくなっているようです。何かの出来事やきっかけを作って、そこでネットワークを作ってつながり合い、徐々になじんでいくことが必要だと思います。

──具志堅先生は以前、福音派の日本福音同盟(JEA)総主事をされていました。その福音派の教会の多くは「新改訳聖書」を使っていますが、日本聖書協会の聖書は主にプロテスタント主流派とカトリックなどで使用されています。

 「聖書協会共同訳」事業を推進してきた前総主事の渡部信先生も、「ぜひ新改訳側の翻訳者と一緒にやっていきたい」という思いはあったと思います。結局それは叶(かな)いませんでしたが、先々のことは分かりませんから、次の課題となるでしょう。今後、翻訳者の先生たちが引退していくことは「新改訳」も同じだと思うので、10年くらいすると状況はかなり違ってくるのではないでしょうか。

──長らくあった福音派との壁を今後どうしていくのでしょうか。

 すでにそのような壁を超えている先生方も多くおられます。これからはその事例を増やし、理解者・協力者の数が増えていくことが、壁をなくしていくことにつながると思います。当協会はエキュメニカルですから、違いはあっても不必要な垣根をなくしていくというのが、私も含めた全体の姿勢です。正教会とも交流を望んでおりますし、カトリック教会にも助けてもらわなければいけないと感じています。

──「キリスト新聞」(キリスト新聞社)と本紙「クリスチャンプレス」(日本聖書協会)の業務提携が先日発表されましたが、メディアとはどういう協力関係をお考えですか。

 現時点ではプラットフォームを作って、さまざまなメディアと一緒にやっていくというのがベストではないかと考えています。例を挙げれば、スマホアプリの「スマートニュース」みたいなイメージです。良好な関係の中で、それぞれの特徴を生かしながらニュースを提供し、読者が読むものを選べるような仕組みが望ましいです。

 キリスト教専門書店も似たような状況にあります。一般でも書店がどんどん閉鎖されていく中で、課題を克服するためには、協力が必要です。一つの都市に書店が何店かあるとすれば、「全部残せなくても、一つは残そう」というような建設的な話し合いをしていかないと。具体的な提案はまだありませんが、課題であると理解しています。

──聖書のデジタル化が進んでいますが、紙の聖書は今後減っていくのでしょうか。

 聖書協会世界連盟の統計によると、聖書の電子化はマイナスの影響ではなく、電子書籍の売れ行きが伸びるとともに紙の本の売れ行きも伸びているというプラスの結果が出ています。特に米国の場合、紙の本の絶対量は確かに減っていますが、紙の本が完全に売れなくなることはありません。ですから、聖書は、紙はもちろんのこと、デジタル(電子)での使用・販売も進めていきます。どちらもニーズがあるからです。それをどのように展開していくかは今後の課題です。

──「聖書協会共同訳」の翻訳について、神学者の段階では新たなチャレンジがあったのに、結果はそれほど変わらなかったと言われています。

 これからも聖書学を研究される学者の先生方が「聖書協会共同訳」について論文を書かれたりすると思います。これまでの議論や批評も含め、それらを蓄積していく準備を私たちは始めています。『New聖書翻訳』という小冊子を出しているので、そこにも提言など書いてもらいたい。そのような学術的研鑽(けんさん)が、結局は聖書翻訳における財産になっていくと思っています。

──ミッション・スクールや教会では、聖書の翻訳が新しくなったからといって、聖書を買い換える余裕はないのではないでしょうか。

 各教会やミッション・スクールに新しい聖書を利用していただきたいのは山々ですが、その買い替えの判断はお任せするしかありません。私たちは売る側として自信を持って「聖書協会共同訳」をお勧めしますが、「新共同訳」を使い続けたいというところもあり、それは私たちも理解しています。

──新しい聖書に切り替えてもらうために、何か具体的な戦略などはありますか。

 販売促進のためのキャンペーンを考えています。話を聞くと、各教会は「先にミッション・スクールが替えてから」、一方、学校は「教会が替えてから」と、お互いに様子をうかがっているところがあるようです。つまり、それぞれに事情があるというのが現状だと思います。現時点では、感謝なことに北陸学院が替えることを決められ、東北学院も興味を示してくださっています。「新共同訳」の時のようなスピード感はないかもしれませんが、動き始めているので、私たちとしてはとても嬉しいです。

──聖書アプリについて教えてください。

 「ウェブバイブル」=写真=が1月から提供を開始します。「聖書協会共同訳」が発売されて1年、これまでは紙媒体のみでしたが、これからはテキスト・データでも読むことができます。また、当協会のホームページの本文検索にも「聖書協会共同訳」が昨年末に加わったばかりです。こちらは、これまでどおり無料で使えます。「ウェブバイブル」は有料ですが、本文検索とは違い、ルビもつきますし、フォントの大きさや行間なども設定できます。

 今は教会でも、紙の聖書の代わりにiPadを持ってくる人が増えています。そういう意味でも、もうちょっとこれを工夫して、礼拝やミサの役に立てることができれば、教会の永続性にもつながるのではないかと感じています。

 それから、これは私が勝手に言っていることなのですが、私たちの強みは、聖書協会が世界中につながっていることなので、今後、外国人労働者や定住者が増えていく中で、タガログ語など、外国語でデジタル化されたものも必要になるだろうと想定しています。

*全文は紙面で。(クリスチャンプレスと共同取材)

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