「連れてくる」ではなく「会いにいく」教会 石川有生さん(フリーランス牧師)の場合 ルポ「たとえばこんな牧師のカタチ」 Ministry 2019年9月・第42号

 神学校への入学者が減っている。聖書や神学を学びたいという声は聞こえてくるのに、牧師になるため献身するという若者が増えないのはなぜだろう。そもそも既存の教会と牧師との関係性が変わりつつあるのではないか。紆余曲折を経て、一度牧師としての働きを退いた経験を持つ二人の話を聞いた。それぞれの働きは異なるが、奇しくも異口同音に語ったのは「牧師のカタチは変わらざるを得ない」という強い意志。今、私たちに必要な発想の転換とは?

石川有生(ともみ)さん(フリーランス牧師)の場合

それ以外の伝道方法を知らなかった

 思えば長く暗いトンネルだった。高校時代、親友の死を機に生きる意味を問い始め、スポーツや勉強に没頭するも空しさだけが残った。学生時代、友人から誘われたことを機に教会へ通い、初めて救いの喜びを実感した。カルト的な組織運営で問題になった教団だったが、教会の教えは正しいと信じ熱心に伝道した。卒業後、ブラック企業で営業職に従事するも満たされず、神学校へ入学し牧師の道へ。

 初めて赴任した教会で得た謝儀(牧師給)は生活できるギリギリの額だった。東北の地で若者に伝道しようと学生限定の礼拝や喫茶店での聖書研究など、さまざまな試みを提案したが、「教会のためになる実務が最優先」「やりたいことは余剰時間で」「礼拝は教会でするもの」などを理由に、承諾は得られなかった。お金がないことよりも、「こうあるべき」という牧師像を押し付られることのほうが苦しかった。

「伝道熱心」だった学生時代の石川さん(右)

 過労とストレスで鬱を発症後、2018年3月に無期限休養。実家の神奈川で静養しながら、単立教会で協力牧師として同年11月まで働いた。これまで、「教会でしか牧師はできない」「教会に人を連れてくることでしか奉仕できない」と思い込んでいたが、教会に仕えるよりクリスチャン以外に仕えたいとの思いは募る一方だった。

ノンクリスチャンと出会いたい

 協力牧師としての任を解かれて以来、毎週の日曜日ごとに教派を超えて50以上の教会を巡った。しかし、二度と行きたくないと思った教会が6割。牧師を名乗ると行く先々で怪訝な顔をされた。「教会に行ってみたい」という人を一緒に連れていったこともある。ホームページも事前に確認し、肌が合いそうな教会を厳選して行ったが、「どこから来たか」「なぜ来たか」などと質問攻めにあい、教会に連れていくのはやめようと思った。たどり着いたアイデアが「会いにいく」教会。奇しくもお笑い芸人の西野亮廣さんがネット番組「ニシノコンサル」(2018年10月放送)で、「若者が来ない」と悩む牧師に対して提案した助言も「教会で待っていても人は来ない。牧師自身が『会いにいく教会』になるしかない」だった。

 1カ月弱の路傍伝道で延べ500人に声をかけ、イエスの話をしようと試みたものの、成果がまったく得られなかったことも大きな転機となった。学生時代から自分なりに編み出したかつての方法がまったく通用せず、チラシを作っても物の見事に不発だった。結果、並行して使い始めたSNSの発信を通じて出会うことにした。

 誰かに会いたいというニーズはツイッター上にあふれている。都内で会える人を積極的に探して会い始めた。まずは地元の友人が声をかけてくれた。プロフィール欄に「クリスチャン」と明示していると、ほぼ間違いなくキリスト教のことを聞いてくれる。教会に人を連れてくることを目的にしなくなってから、伝道の可能性が格段に広がった。

教会の「中」と「外」とのギャップ

 今では1日に平均3、4件のアポイントが入る。これまで月50人のペースで7、8カ月間に350人と会ってきた。うち3分の2がノンクリスチャン。他愛もない話をして終わる人もいれば、逆に営業される場合もあるが、直接的に勧誘することはない。何度か会ううちにプライベートでも付き合える友人になることがある。

 意外なことに、教会や聖書についてネガティブな偏見を抱いている人は皆無だった。「聞いたことがない」「知らない」「むしろ聞きたい」「知りたい」という意見が大多数。逆にクリスチャンのイメージは良い。牧師に会ったことがあるという人はほとんどおらず、せいぜい結婚式の司式者として接する機会があるのみ。教会には「宗教だから嫌がられる」という思い込みがあるのではないか。それは長らく「伝道しない言い訳」になっていたのではないか。石川さんは、「多くの教会が聖書を伝えたいと思っている一方で、多くのノンクリスチャンたちが聖書を知りたいと思っている。互いの思いが一致しているのに大きなギャップがある。それを埋めたい」と語る。

あえて「行かなくてもいい」

 これまで出会ったクリスチャンとの会話は、教会への愚痴と不満から始まることが多いという。教会に所属していないことへの後ろめたさを吐露するケースも少なくない。「他に誰も言ってくれないので、あえて『(教会に)行って信仰を失うぐらいなら、むしろ行かなくていい』と言うようにしています」と石川さん。自分の受けてきた教えとの乖離で葛藤もあったが、実際に多くの教会に行ってみて初対面の人間関係には疲れるし、恵みを感じることも多くはなかった。

 日本全国、北海道から九州まで「会いにいく」旅は今日も続く。現在はLINEのオープンチャット機能を使ったオンライン教会で約30人と聖書の話をしているほか、LINE公式に登録しているメンバー約70人には週1回、聖書に関する話も配信する。週3日のアルバイトで月収8万円。実家暮らしなので家賃はかからないが、「会いにいく」交通費でほぼ消える。現在は2カ月に1回「報告レター」を発行し、読者に支援を呼び掛けている。また、昨年秋からはさまざまな理由で教会に行かない(行けない)クリスチャンたちのための集いを始めた。これまで新宿で6回、仙台で1回、大阪で1回、1月25日には名古屋での開催も予定している。教会にある種のアレルギーを感じ、参加したくないものの、聖書の話はしたいという人がいる。その思いに応える形で始められた。

 「教会の中だけが時代に取り残されている」との危機感は強い。「大切な真理は守り続けなければなりませんが、変わりゆく時代の中で、その時代の声に耳を傾けることも必要ではないでしょうか」

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【Ministry】 鼎談「今ドキの神学校事情」/ルポ「たとえばこんな牧師のカタチ」 42号(2019年9月)

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