【新春連続インタビュー〝志〟継いで未来へ】 メディアは”誰のために”伝えるか 杉野希都さん(「カトラジ!」代表) 2020年2月1日

 宗教改革500年を機に、「えきゅぷろ」をはじめ若者が教派を超えて集うプログラムを相次いで企画・運営してきた立役者。昨年の教皇来日では、カトリック信徒として青年有志と「#フランシスコうぃる」と題する企画を盛り上げ、青年たちの声を「法被」=写真右=という形でフランシスコ教皇に届けた。カトリックの青年によるインターネットラジオ番組「カトラジ!」代表を務め、テレビディレクターとしてもメディアに携わる杉野希都(のぞみ)さんに話を聞いた。

教皇来日は原点に立ち返る好機
〝若者の「いのちを生かす」教会に〟

――改めて今回の教皇来日の意義をどうお考えですか?

 語り尽くせないほどあると思いますが、身近な事例を一つ。「新興宗教の教祖と教皇は何が違うのか」と豪語していた知り合いのメディア関係者がいたのですが、広島で被爆者と接するフランシスコ教皇の姿と彼のスピーチを聞いて、いきなり「ただものじゃない」と言い出したんです。彼はその後、教皇の日本での行動を本質的に伝える、感動的なコンテンツを作りました。

 そうやって世界の人々が教皇に心酔するのは、世界的な組織のリーダーが目の前の一人ひとりと真摯に向き合い、「何のためにではなく、誰のために生きるのか」というテーマを体現しているからだと思います。単に「核がいけない」「気候変動がいけない」という理念だけでなく、その影響を受ける人々の痛みが、教皇には見えている。同じくメディアにも「何のためにではなく、誰のために伝えるのか」が問われているのだと思います。

――テレビでは宗教がタブー視されがちですが。

 メディアでLGBTが頻繁に取り上げられるようになった一方、日本では宗教がダイバーシティ(多様性)の一部として言及されることはあまりありません。例えばクリスマスに仕事の合間をぬって教会に行くとか、日曜日には仕事の予定を入れないとか、クリスチャンが自身の宗教的アイデンティティを積極的に発信することから、個々人の信仰も多様性の一つだと認識されていくのではないかと思います。

 それを推進するためには教会の側にも工夫が必要で、例えば宣教観の見直しです。「宣教=信者を増やす」という考え方をやめて、「救い」や「愛」を伝えるという福音の本質を実行するなら、相手を信者にする必要はないし、教会という組織の一員にすらならなくてもいい。教会が原点に立ち返れば、自ずと人は増えていくはず。それが本来の姿だと思います。社会か教会か、どちらかが変われば良くなるという幻想は捨てて、互いに変わる努力をすべきでしょう。

――「青年の集い」など、教皇が若者を大切にする姿も印象的でした。

 今回、訪日の主題とされた「すべてのいのちを守るため」という命題には、戦争や環境問題だけでなく、「いのちを生き生きとさせる」ことも含まれています。日ごろ、生き生きと「生かされていない」多くの若者たちに接している、教員の友人たちが特に共感した点でもありました。作り上げた価値観をいかに押し付けてきたかということを、反省しなければなりません。社会や学校で散々息苦しさを感じてきたのに、教会でまで説教されたくないという思いも強く感じます。バチカンでも教皇の願いとは裏腹に、官僚主義的な体質からまったく抜け出せていないという話も聞きます。

 今すぐには変わらなくても、未来のために主張し続ける。それが、これからの世代のために私たちができることだと思います。被爆地・広島を取材した折に、焼け野原だった当時の教会を復興させたのは若者たちの力だったと聞きました。若いいのちを「生かす」ためにも、自らの手でゼロから作り上げようとする動きが大切です。その意味でも今回の教皇来日は、教会を原点に立ち返らせてくれるきっかけになったと思います。

――新しい時代のメディアのあり方についてどうお考えですか?

 今はネットで情報を得る人がほとんどで、腰を据えて情報に触れる機会が減っています。ネットサーフィンはするけれど、一つひとつの情報を深掘りはしない。ツイッターのように短く軽いものが好まれます。字数制限のないフェイスブックですら重いのに、教会で年寄りの長話なんか聞くわけないじゃないですか(笑)。ただ、紙でじっくり情報を読む方が時間はかかりますが、頭には入っていきやすい。バーチャルかリアルかという問題にもつながると思いますが、両方の特性を生かすことが大事です。テレビや新聞といったオールドメディアは、まさに正念場だと思います。

――これからの世代に望むことは?

 経済的基盤を考えても、今のままだと教会の先細りは間違いありません。その際、エキュメニズム(教派を超えた一致)は死活問題です。将来的に最も苦しい状況に直面するであろう若い世代には、今からエキュメニズムのセンスを持っておいてほしいと思います。「えきゅぷろ」を通して分かったことは、組織の動かし方とか、それに伴う教職者(牧師、司祭)との関わり方に慣れていないという点でした。カトリックは組織化されているだけあって、そうした運営に慣れている青年もいる一方、プロテスタントの若いスタッフからは「いかに自分たちにノウハウがないかが分かった」という言葉を聞きました。フランシスコ教皇の言う「若者のいのちを生かし切れていない」状態です。能力や思いはあるのに、「生かす」ための方法を知らない。やはり互いに尊重し合い、学び合いながら一つの教会を作っていくことが大切で、頭の硬い大人になってしまう前に感覚を磨いてほしいと思います。

 若者といえば今、グレタさんが話題になっていますが、『機動戦士ガンダム』の監督である富野由悠季さんが、環境問題を訴えた彼女の姿を見て「自分たちの世代は社会問題に対する妙案を持ってない。だから次世代に託す」というような発言をしていました。『ガンダム』は、10代後半の若者たちが戦争に巻き込まれていく中で何を考え、どう生きるかを描いた作品ですが、登場する大人たちは、若者たちに対して自分の生き様を見せつつも、絶対にそれを押し付けない。私たち大人のやるべきことは、若者にできるだけ多くの選択肢を見せ、そこから生まれた新しいアイデアが本当に良いものかどうか見極めて、背中を押すことなんじゃないかと。私たちの活動に批判が寄せられることもありますし、若い世代から問題を指摘されることも少なくありませんが、だからこそ彼らと一緒に変わっていきたいと思っています。

――ありがとうございました。

「#フランシスコうぃる」=教皇来日を、青年の教会参画につなげようと立ち上がった、青年有志の活動。教皇への青年の声を全国から集めたほか、学習会・分かち合いの資料も作成・公開した。

 すぎの・のぞみ 1987年京都府生まれ。テレビディレクター。シグニスジャパン(カトリックメディア協議会)メンバー、「カトラジ!」代表。「食卓を囲む」宗教の人間として、宴会マスターを目指している。

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