【東アジアのリアル】 台湾・香港をつなぐ長老教会 藤野陽平 2020年2月21日

 1月11日に台湾の総統(大統領に相当)と立法委員(同、国会議員)が行われ、現職で中国が示す一国二制度を拒絶する民進党の蔡英文氏が、中国との関係改善を訴える野党国民党の韓国瑜氏を破り再選を果たした。当初、苦戦が予想されていた蔡政権が、800万票を超える台湾史上最高の得票数で再選するまでに流れが変わったのには、すでに各種メディアが大きく伝えている通り、香港の逃亡犯条例改正に端を発したデモの影響が大きかった。

 投票日前後には「光復香港・時代革命」というスローガンを掲げる香港人のグループと、彼らにエールを送る台湾人の姿を多く見かけたし、蔡英文も香港に共感的なコメントを発表し続けた。こうした台湾と香港をつなぐ重要なパイプとなっているのが、民進党の支持母体の一つである台湾基督長老教会(長老教会)だ。長老教会は選挙のたびに投票先の基準を発表してきた。あくまで宗教団体であるために固有名は出さないものの、一読で蔡英文や民進党など台湾人意識の強い政党への投票を呼びかけていることが分かる内容になっている。

開票結果を見守る中で香港のデモへの支持を訴える人々(民進党本部)

 今回の選挙でも長老教会は「2020年総統及立法委員選挙支持準則」という文書を2019年12月9日に公表した。前回に比べ蔡政権の政策をより具体的に支持していることに加えて、香港のデモへの対応を見ると中国の拡張の恐ろしさが分かるとし、「92年コンセンサス、一国二制度、中台は一つの家族だという主張を拒絶する」候補者や政党に投票すべきと訴えた。

 長老教会の香港支援の中心的存在は、2月1日付本紙でも伝えられたように台北市内にある済南教会と黄春生牧師である。古跡指定された日本建築であり、日本の複数のミッションスクールが修学旅行の訪問地としている本教会は、香港へマスクやヘルメットといった物資を送り、デモで怪我をした人たちを受け入れるなど多岐にわたる支援を行っている。台湾社会に向けてもデモ活動や講演会、グッズの配布などを通じて積極的に香港への連帯を訴えている。

 こうした積極的な活動のため、もはや済南教会は単に長老教会だけではなく、台湾全体にとっての香港支援の中心地となっている。選挙を応援に来た香港人が訪問し、教会側もキリスト教信仰の有無を問わず、面談をしたり情報提供したりしていた。将来を心配し涙ながらに現状を訴え、教会関係者からの話に食い入るように耳を傾ける若者たちの姿は、同席した私の目に焼き付いて離れない。また、多くの国際的なメディアが済南教会にて取材を行うようになっており、選挙前後にはメディア対応に追われる教会関係者の姿も見られた。日本でも複数のメディアが取り上げたので、目にされた人も多いかもしれない。

外国メディアの取材に応じる済南教会の関係者

 2014年のひまわり学生運動のころから「今日香港、明日台湾」というスローガンを耳にするようになった。今回の選挙で台湾人は民主主義や人権といったものを優先するという決断をしたのだが、そういった意味で「今日台湾、明日香港」の実現に向けた台湾香港の連帯はますます強まるだろうし、両者をつなぐ教会の動きは、今後ますます注目されるべきであろう。

藤野陽平
 ふじの・ようへい 
1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学―社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。

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