【東アジアのリアル】 新型コロナウイルスと韓国教会 李 相勲 2020年3月11日

 現在、新型コロナウイルスが日本や韓国においても人々の生活に大きな影響を及ぼしつつある。特に韓国では、キリスト教系の新宗教である「新天地イエス教会」(新天地)内の集団感染などを通して大邱市で感染者数が急増した2月中旬以降、ウイルスに対する恐怖心が増している。韓国では、多くの人が集まる集会が次々に中止・延期され、博物館などの施設も休館するケースが増えている。こうした状況の中、韓国教会はどのような対応を見せているのであろうか。

 感染者の急増を受け、韓国の諸教団・機関は、牧会書簡や声明の形で指針を発表し、礼拝における感染防止策や今回の事態に対する心構え、祈りの題目についての伝達などを行なっている。中には、インターネット放送を通しての礼拝に切り替えることを推奨するものもある。実際、感染者が急増している大邱市では、設備の整った大型教会などは礼拝堂での礼拝を中止し、インターネット礼拝で代替し始めている。一方、インターネット放送用の設備のない教会の中には、礼拝自体を休む教会も存在する。大邱地域のメソジスト教会のように、設備のない教会のためにいくつかの教会が協力し、各教会の牧師が司会・祈祷・聖書朗読・説教などを分担する形でインターネット礼拝を行っている例もある。

 このような対応は、大邱だけでなく、韓国中に広まりつつある。韓国のカトリックは全教区でミサを中止することを発表した。プロテスタントにおいても、首都圏の大型教会をはじめ、礼拝堂での礼拝をインターネット礼拝に切り替えることを決断する教会が増えている。

ソウルにある教会の掲示板に貼られた掲示物。「新天地 出入り禁止 出入りおよび新型コロナの感染原因をもたらした場合には、法的責任を問うことを厳重に警告する!」と記されている。

 新型コロナウイルスによる危機をめぐっては、一部の牧師らが礼拝における説教を通して、それはキリスト教を弾圧する中国に対する神の懲罰であるとの発言を行った。このような主張に対しては、教会内からも批判の声が上がっている。また、感染が急増した2月中旬以降の説教では、新天地に対する批判が増えているともいう。

 1984年設立された新天地は、韓国の主要なキリスト教教団が「異端」とみなす宗教団体である。設立者であり、現教主である李万熙を神格化する新天地は、現在、韓国内外に24万人余りの信徒を擁すると称している。キリスト教が新天地を問題視する理由の一つは、その布教方法にある。キリスト教側によれば、新天地は教会に信徒を装って潜入し、信者を奪ったり、教会を丸ごと乗っ取ろうとしたりするのだという。感染が広まる中、韓国教会内には、新天地がキリスト教の礼拝に参加してウイルスを広めようとしているとの噂が流れたこともあり、新天地に対する警戒心が一段と高まっている。

 韓国基督教教会協議会は、2月21日に発表したその牧会書簡の中で、危機的状況におけるキリスト者の責務は、誰かを批判することではなく、神の愛を実践することであるとし、「国籍、人種、宗教、理念に関係なく、最も緊急を要する人に対してまず救いの手を差し伸べる人類共同体の基本原則をかみしめつつ、嫌悪や差別ではなく、連帯と人類愛の精神をもって大災害を克服すべきである」と述べている。新天地への対応を含む現在の困難な状況にあって、韓国教会がとるべき方向について示唆するところの多い牧会書簡であると言えよう。

い・さんふん 1972年京都生れの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、明治学院大学非常勤講師。専門は宣教学。

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