【訃報】 渡辺信夫さん(神学者、日本キリスト教会牧師、『キリスト教綱要』訳者) 2020年3月27日

 わたなべ・のぶお 3月27日午前1時、脳内出血のため逝去。96歳。葬儀は4月2日、日本キリスト教会東京告白教会(東京都世田谷区)で行われた。司式は澤正幸氏(日本キリスト教会福岡城南教会牧師)、喪主は妻の鈴女氏。

 1923年大阪府生まれ。京都大学文学部哲学科卒業。文学博士。49年、伝道者となり、58年に東京都世田谷区で開拓伝道を開始。以来2011年まで、日本キリスト教会東京告白教会牧師。元カルヴァン・改革派神学研究所所長。著書に『教会論入門』『今、教会を考える』『プロテスタント教理史』『戦争で死ぬための日々と、平和のために生きる日々』、訳書に『キリスト教綱要』など。

 カルヴァン研究の第一人者として多くの著訳書を手掛けたほか、軍国少年として教育された戦時体験もふまえ靖国神社、沖縄、ハンセン病などの社会的課題についても積極的に発言し続けた。


2012年12月25日付「キリスト新聞」掲載のインタビューより

――東日本大震災を、敗戦に次ぐ「第二の敗戦」と表現されていましたが、先生の目にはどう映っていますか?

 「第一の敗戦」以上の悲惨な状況だと見ています。3月11日が敗戦と結びついたのは、津波に町が飲まれていく光景と、戦時中に見た船団が沈没していく様が重なったからです。

 第五福竜丸の被曝で全国が騒いだ後、なぜ私が原発について運動しなくなったのか考えてみると、平和運動や核廃絶の運動が分裂して、どう身を処していいかわからなくなったということがありました。どちらかにつくわけにはいかないと思った。当時、どちらかにつくことは亀裂を大きくするだけだと思って手を引いたわけです。

 そのうち、核エネルギーの平和利用などというキャンペーンが盛んになってきて、おかしいなとは思っていたんですが、運動からは身を引いた。結局、騙された責任があるということに気がついて、勉強しなければいけないと始めました。

 ただ、今さら原子物理だとかテクノロジーを老人が学んでも仕方ないので、これまで自分が考えていた分野で、思想史的に考え直してみましたら、人間が偉大なものであって、偉大な力を所有し、偉大なものを作り出すことができるという思想が起こったのはルネッサンスの時代ですね。そうした考えに対して、宗教改革者たちははっきり拒否する姿勢を持っていた。それを受け継いでいるはずの私が、それに対峙しようとしなかったことについて、考え直さなければならないと思ったわけです。

 そしてもう一つが、マキャベリズムです。権力が強大になっていくことを肯定的に考えることに、カルヴァンは真っ向から反対しています。今回の原発事故がどう起こったのかと考えてみると、国家の資本やテクノロジーが原発に関わり、官僚機構、財界などの力が働いているという点では、マキャベリズムの延長線上ですね。

 キリスト教としては、すでに先祖が見抜いていたわけですから、新しい見方で今日の権力の肥大化を突きとめていかなければならない。そのためにも、キリスト教がもっと元気を出さなきゃいかんと思ったわけです。具体的にどういう運動を組み立てていくのかということは全然わかっていませんが、とにかく見えてきたわけです。

 私は十分なことはできませんが、後に続く方に励ましの言葉を与えることはまだできるので、もう少し生きていなければいけないと思っております。

*インタビュー全文は『聖書を伝える極意――説教はこうして語られる』(キリスト新聞社)に収録。

【書評】『聖書を伝える極意』 説教はこうして語られる  平野克己 監修

撮影=山名敏郎

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