【東アジアのリアル】 「国際的防疫の孤児」台湾と新型コロナウイルス 高井ヘラー由紀 2020年4月21日

 新型コロナウイルスが未曽有の惨状を世界中にもたらす中、台湾は例外的に感染拡大を食い止めることに成功している。台湾では、今年1月11日の総統選挙で独立志向の蔡英文が再選され、台湾経済に圧力をかけようとする中国が個人観光客を台湾に送り出していなかったことが吉と出た。しかし今回、台湾がこれほどまで健闘している背景には、何と言ってもSARSが蔓延した2003年の苦い経験から学んだ教訓がある。

 台湾は当時も現在も、中国の圧力によりWHO(世界保健機関)に加盟はおろか、オブザーバーとしての参加も許されていない。WHOの支援を依頼したものの相手にしてもらえず、必要以上にSARS感染が拡大した結果、最終的に300人以上が感染、37人の死者が出た。当時衛生署長だった現副総統の陳建仁は、この経験に関し、「WHOは2300万人が暮らす台湾を孤児とし、台湾を見捨てた」と述べている(「産経新聞」2020年2月27日付)。

筆者が務める南神(台南)神学院。外部の人が入れないよう門は閉ざされ、学生や教師も一つの入口からしか校舎に入れない。

 このように、台湾は「国際的防疫の孤児」(陳建仁)である、という現実を突きつけられて以来、台湾政府は、疫病発生の際に中央政府が統括的な強制力をもって国内の防疫対策を執行できるための関連法を整備、感染症やその他の各分野の専門家を擁する所轄部局を「衛生福利部疫病管制署」(米国のCDCにあたる)として整備・昇格させ、自前で各国と防疫上の国際的連携を強める努力を行ってきた。2018年に武漢ウイルス研究所BSL4(バイオセーフティーレベル4)実験室が稼働されたことを受けて、新北市(台北市の北方に位置する)に同様の施設を作る計画も発表された。中国との緊張関係が続く中、台湾が生化学兵器の標的になる可能性を懸念してのことだ(「Taiwan News」2019年1月9日付)。

 武漢の事態を早い時期に察知し、1月初旬から新型コロナウイルスを的確に迎え撃つことができたのは、そのような積み重ねがあったからである。政府はSNSなどを有効に使って市民に正確な情報を伝達すると共に市民の危機意識と防疫意識を高め、マスクや消毒用アルコールが平等に行き渡るようにして安心感を与え、官民が一体となって、3カ月近くも防疫に努めてきた。

 その結果、春節(旧正月)前後の冬休み明けの新学期開始が2週間延長になった以外は、日常生活をほぼ通常通りに営むことができている。もちろんそれは、あらゆる局面で「これでもか」というほどの徹底的な防疫措置が取られ続けてのことだ。それでも市民がついて来るのは、中国の要求をうのみにして台湾をあからさまに無視し続けるWHOに対する憤り、そして「防疫=国を守ること」との理解が広く共有されているからだろう。

 それは教会でも同様だ。独立志向の強い台湾基督長老教会は、蔡政権を支持していることもあり、早期から政府の要請に応えて手の消毒、検温、マスク着用、握手の回避などを実施するよう各教会に通達、2月以降は屋内での大規模な会議やイベントを延期、3月中旬には台北最大規模の雙連教会がオンライン礼拝に全面的にシフトした。

 他教派教会も似たような対応をしてきたが、その意識には若干の違いが見られる。非長老教会系の「台湾基督教連盟」は、中国が新型コロナウイルスを利用して台湾に圧力を加えたり戦争を仕掛けたりするかもしれない、と人々が心配していることに対し、教会にとっての「防疫」の務めとは、信徒が神に心配を委ねられるよう導くことだ、とする(「基督教論壇報」2020年3月24日付)。「防疫」をあくまでも信仰的事柄ととらえ、政府と足並みをそろえることを避ける立場であるといえよう。

高井ヘラー由紀
 たかい・ヘラー・ゆき 1969年ニューヨーク生まれ。国際基督教大学卒、同大学院博士後期課程修了。恵泉女学園大学非常勤講師、明治学院大学非常勤講師などを経て、台湾南神神学院助教授。日本基督教団信徒派遣宣教師。

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