【宗教リテラシー向上委員会】 コロナ禍で迎えるラマダーン 小村明子 2020年4月21日

 新型コロナウイルスの感染拡大は、イスラームの世界でも深刻な影響を及ぼしている。サウジアラビアにあるイスラームの聖地メッカは、日頃は巡礼者など多くの信徒がいるのだが、現在では人影もまばらで、時期を問わずに行われるウムラと呼ばれる小巡礼が禁止されている。

 日本のイスラームについて言えば、男性信徒の義務である毎週金曜日に行われる集団礼拝が中止となっているほか、改宗者や信徒の子弟を対象にしたイスラーム教室などの勉強会や講演会などのイベントも開催できなくなっている。

 こうした状況の中で、今年は4月23日ごろからラマダーン月と呼ばれる断食月に入る。病人や妊婦、幼い子どもたちなどを除いて全世界のイスラーム教徒(ムスリム)が、日の出から日没までの間に断食をすることになる。食事はおろか水を1滴も飲まない。日没後にはイフタールと呼ばれる食事をすることになる。家族単位でイフタールをとっても構わないのだが、だいたいが近場のモスクなどに参集して、そこでその日の断食後の食事をすることになる。

 またイフタールの後に、夜分休憩を挟みながら1時間超にわたってタラーウィーフという集団礼拝が行われる。これはラマダーン月に行われる特別な礼拝で、義務ではないが、敬虔な信徒がそのままモスクに残ってタラーウィーフの礼拝を率先して行う光景を毎年見ることができる。

 ラマダーンという特別な月には、イスラーム教徒たちはこれまで以上に敬虔になる。モスクなどに参集して集団で過ごす機会も増える。だが、今年のラマダーン月はウイルス感染拡大の影響により、こうした一連の行動を遂行できるのか、不安を抱える信徒たちもいる。

 ある日本人ムスリムは、免疫力の低下を考えると断食できるかどうか不安になると言い、また別の日本人ムスリムはラマダーンという特別な時期に同胞で集まって一緒に礼拝するからこそ恩恵が得られるのだと言う。また、ラマダーン月のイフタールを全日、家族のみ、あるいはごく限られた同胞の友人とで行うことは躊躇するとも言っている。モスクで行われているイフタールに行き、そこで初めて会う信徒とも交流して断食という宗教行為を共有し合うことで、同胞としての連帯感を高めることができるためである。

 一般的に多くのイスラーム教徒は、こうした緊急事態の時であっても厳格にイスラームの教えを守ると見られているが、そうでない者もいる。イスラームの教えにはできない時のやり方もある。また問題が起きた時には、イスラーム法学者たちが問題を解決に導くように、イスラム教の経典であるクルアーン(コーラン)やハディース(ムハンマドの言行録)の解釈の議論を十分に重ねて見解を一致させて、その結果を信徒たちに教示する。

 例えば、タラーウィーフの礼拝については、日本人ムスリムに尋ねたところ「(イスラームの聖地メッカのある)サウジアラビアの(イスラーム法学の解釈に基づく)決定に従うことになるだろう」と教えてくれた。

 最後に余談ではあるが、今回の新型コロナウイルス禍において、ここまできたのかという商品を筆者は見つけた。その商品は日本製の除菌スプレーである。そこに、イスラーム教徒たちが安心安全に摂取あるいは使用することができることを示すハラールマークがついているのである。もちろんアルコールを使用していないから、商品のハラール性が認められた結果である。イスラームの信徒に安心安全に使ってもらうためにハラール認証を受けたのだろうが、商魂のたくましさを垣間見ることができる。

小村明子(立教大学兼任講師)
 こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。

@肉村知夏

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