【東アジアのリアル】 韓国の保守キリスト教の政治活動 李 恵源 2020年5月11日

 2020年4月15日、韓国では国会議員を選出する総選挙が実施された。韓国の国会議席数は300席であるが、そのうちの253席が小選挙区、47席が比例代表制によって選出される。2002年に選挙法が改正され、小選挙区の候補者個人に対する投票に加え、支持政党にも投票する制度が導入された。この法律は、2004年の総選挙から適用された。

 このころから比例代表制を通して国会に議席を獲得しようとする政党が雨後の竹の子のように生まれるようになったが、そのうち毎回現れるものに保守キリスト教系の、いわゆるキリスト教政党がある。2004年から今回までの5回の総選挙においては、キリスト教政党の国会進出は当選要件である政党支持率3%を獲得できず、一度も実現していない。各総選挙におけるキリスト教政党の得票率と獲得票数を見ると下表のようになる。

 2016年の総選挙では、基督自由党と基督党の得票率を合わせると3%を超えている。また今回の総選挙では3%には達しなかったが、比例代表制に参加した35党のうち、基督自由統一党は得票率で7番目となった。このことから考えると、キリスト教政党の国会進出が実現するのにはこの先それほど多くの年月を要さないかもしれない。

 今回の基督自由統一党は、保守キリスト教勢力である韓国基督教総連合会(韓基総、会長=チョン・グァンフン牧師)の支援を受けたが、韓基総と基督自由統一党は、韓国初代大統領の李承晩が強調した、自由民主主義、自由市場経済、韓米同盟、キリスト教立国論を支持し、これらに基づく憲法改定を目標としている。

 「文在寅下野汎国民闘争本部」を率いるチョン牧師は、保守陣営においては「愛国牧師」と称されているが、韓国キリスト者の多くは、チョン牧師ならびに韓基総、キリスト教政党に対しては否定的な見方をしている。2019年11月7日に韓国のCBS(キリスト教放送)が実施したアンケート調査によると、韓国キリスト者の87%がチョン牧師らに対して否定的な見解を持ち、また80%がキリスト教政党の結成に対して反対していた。

 韓国の進歩的キリスト者が既存の進歩的政党を支持することで政治参与しているのに対して、一部の保守キリスト者はキリスト教政党の結成を通しての政治参与を目指している。その中心にある韓基総とチョン牧師は今回の総選挙において、様々な非理性的・暴力的な言動を行なった。チョン牧師は、新型コロナウイルスのため集会を自制するよう要請がある中、文大統領に退陣を要求する集会を開催し、また今年2月には文大統領に罪があるとして「軍法会議であれば銃殺されねば」と発言し、物議を醸した。問題を起こして注目を集めようとするその手法には市民の厳しい視線が向けられることとなった。

 キリスト者は理性的・平和的でなければならないはずであるが、現在の韓国において、特に今回の総選挙をめぐって最も目についたキリスト教グループが非理性的・暴力的なものであったということは残念でならない。

基督自由統一党の選挙チラシ。「家庭と教会 自由大韓民国 共に守りましょう」とある。「19」は投票用紙における同党の番号。

 い・へうぉん 1980年、ドイツ生まれ。延世大学韓国基督教文化研究所専門研究員、上海大学宗教と中国社会研究所客員研究員。延世大学神学科卒業、香港中文大学大学院修士課程、延世大学大学院博士課程修了。神学博士(教会史)。著書に『義和団と韓国キリスト教』(大韓基督教書会)。

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