【宗教リテラシー向上委員会】 異例尽くしのラマダーン 小村明子 2020年6月11日

 4月23日から始まった2020年のラマダーン(断食月)も1カ月の終わりを告げた。今年のラマダーンをムスリムたちはどのように過ごしたのだろうか。

 ラマダーン月が始まった当初、世界中のムスリムたちはどのようにこの期間を過ごすべきなのか不安の中にいた。インターネットのサイトでは、断食をすると免疫力が低下してしまうのか、集団礼拝をする場となるモスクが閉鎖されている中でどのようにラマダーンを過ごせばよいのか、などの質問が寄せられていた。またBBCやCNNなどのニュースサイトでは、ヨーロッパあるいはイスラーム諸国での今年のラマダーンの風景を報じていた。国によって感染防止対応はそれぞれ異なる上、ムスリム各自の考えによっても異なるものであるから、さまざまなラマダーン月を過ごすことになったといえる。

 数例を挙げてみよう。メッカのカアバ神殿の周囲は、カアバにある黒石を触ろうとして常に人が集まっているのだが、感染防止対策として神殿の周囲を柵で囲い人々が近寄らないようにした光景は、通常ではあり得ないものであった。また、ある国のモスクで行われていた集団礼拝は間隔を空けて行われていた。本来ならば集団礼拝はお互いの体が触れるくらい密になって行われるべきであるが、人一人分の間を空けて行われている光景もまた異様であった。さらに別の国の光景として、その国においても本来は自粛対象であるのだが、夜になると近隣の者たちを誘って道端で大人数によるイフタール(ラマダーン中に行われる日没後の食事)を行っていた。その報道に接し、ラマダーンがムスリムにとっていかに特別な月であるのかを改めて感じた。

 不安を抱えていた日本人ムスリムたちも同様に、外出自粛の要請を受けて、家族あるいは一部のごく親しい友人たちを自宅に招いてイフタールを行ったという者が多い。

 巷では一時期オンライン飲み会が流行っていたが、ラマダーン月に入った直後に、オンラインでイフタールはできないのかと日本人女性ムスリムに聞いてみた。彼女は家族がいることもあって、家族内でやれば十分だという。ただそれだけではない。オンラインであっても男性の目が気になるという。画像に写っている自分を友人たちの家族の男性に見られてしまったらと思うと、迂闊にオンラインではできないというのだ。もしかしたら、一人暮らしの女性や女性だけで集まることができる状況であれば、オンラインでイフタールをやっていたかもしれない。

 そこで40代独身の日本人女性改宗者に聞いてみたところ、彼女の友人たちにはそれぞれ家族がいるから、たとえ自分だけがオンラインでイフタールをできたとしても、友人たちの方が家族の男性に見られないように場をセッティングする手間があるという。また、別の日本人女性ムスリムに聞いたところ、彼女は友人宅でのイフタールに招かれたこともあったが、外出自粛が続いていた中で、いくら信仰のためとはいえスカーフを着用して外出するのは非ムスリムの人々の目が気になる上に、またこれでイスラームという宗教自体があれこれ言われるのも嫌だなと思い、躊躇して行かなかったという。さらには、これまでは仕事が終わる時間の都合で、一人でイフタールを行うことが常だったから、今回だけが特別ではないと話す者もいた。

 さまざまな思いが交錯する中で行われた2020年のラマダーン。来年は従来通りとなることを祈りたい。

小村明子(立教大学兼任講師)
 こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。

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