【空想神学読本】 「灰羽連盟」にみる現代人の「罪の輪」からの「救済」 Ministry 2019年12月・第43号

 「原罪」をテーマとしたアニメ『灰羽連盟』は「誰もが知る大ヒット作」ではないものの、2002年の放送から17年を経た今もファンを増やし続ける根強い名作である。セピア調の色彩と美しい音楽、ミステリアスな脚本は海外からも高い評価を受けている。

 「原罪・罪からの解放・救い」を描いたこの作品が多くの人に影響を与えているということは、伝道者にとって大きな意味を持つ。なぜならこの作品のメッセージは「現代的価値観を持つ人々にとっての福音」であるだけでなく、同時にキリスト教的価値観との結節点となり得るからである。

 『灰羽連盟』の第1話は、主人公の少女が繭から孵化するシーンから始まる。主人公は自分の名前さえも思い出すことができず困惑するが、「灰羽」と呼ばれる五人の少女たちに温かく迎えられる。灰羽たちは背中に飛べない灰色の羽を持ち、頭上には光輪を浮かべていた。主人公の少女は「ラッカ」という名前が付けられ、光輪が与えられる。そしてその夜、ラッカの背中からは、激痛とともに肉を突き破って羽が生えてきた。それは白くも黒くもない、きれいな灰色であった。

 灰羽たちは皆、繭から孵化する前の記憶をなくしていた。街は高い壁に囲まれ、普通の人間も住んでいる。人間にとって灰羽は「祝福された存在」とされ、ラッカはその扱われ様に戸惑いながらも仲間たちと穏やかな日々を過ごしていく。

 物語の中盤、一人の灰羽は「巣立ちの日」を迎える。それは仲間の誰にも告げずに旅立つ、ひっそりした別れであった。ラッカはその角出を祝福することができず、悲しみと孤独感と罪悪感に囚われ心を閉ざしてしまう。苦しみの中、ラッカの羽は黒く染まり、「罪憑き」になってしまった。

 ラッカにとって一番〝親切〟であった灰羽のレキは、自分も「罪憑き」であることを打ち明ける。「罪憑き」とは何か、自分は何者だったのか、どうして灰羽になったのか……ラッカは悩み苦しむ中で「罪の輪」という謎掛けを知る。

 物語が進む過程で、何度も「罪憑き」という言葉が登場する。視聴者は「罪憑きとは何か」「どうしたら罪から解放されるのか」と考えながら見ることになるが、謎の答えは明かされずに幕を閉じてしまう。明かされないからこそ視聴者は「罪と赦し」について深く考察することになる。

 では「罪憑き」とは何か。そのヒントとして、作中では「罪の輪」という謎掛けが与えられる。その謎掛けは〝罪を知るものに罪はない。では汝に問う。汝は罪人なりや?〟という問答であった。

 この謎掛けは視聴者にも深い思案を促すが、多くの人は出口のない迷路に入ることになる。なぜなら「自分は罪人だ」と答えたならば「罪を知る者」として罪人ではなくなるが、自分が罪人ではないと考えた瞬間「自分の罪を認めない罪人」になるという循環に陥るからである。

 ではどうしたら「罪の輪」から抜け出せるのだろうか。物語の終盤、ラッカとレキはそれぞれの方法で抜け出すことができた。ラッカは他者の愛に気づき、一人で重荷を背負うことをやめたことで、「罪憑き」ではなくなり、灰色の羽に戻った。レキは孤独を抱え続けていたが、消え入るような声で「助けて」と他者の介入を求めた瞬間に囚われから解放された。二人の「罪の輪」からの解放は「強い想いをもった他者からの介入を受け入れること」であった。

 「罪憑き」の原因は明確には描かれてはいない。しかし、考察するならば「罪悪感に囚われ、一人で背負いきれないにもかかわらず、外部を受け入れないこと」が原因ではないかと考えられる。心理学やカウンセリングの分野では「課題の分離」や「他者との境界線」の問題、もうすこし大きな枠組みで表現するならば「自己中心」と言い換えられるかもしれない。そして、自己中心はキリスト教としては「原罪」の結果と言えよう。

 祝福されているが、白くも黒くもなく、飛べない羽を持つ灰羽たち。その灰色は「罪憑き」を潜在的に保持していることを意味しているのではないだろうか。そしてこの「灰色」を「原罪」の暗喩だと解釈するならば、『灰羽連盟』の「罪」とキリスト教の「罪」は非常に近しい概念で描かれていることになる。

 「罪の輪」から解放される方法は、作中では「強い想いをもった他者からの介入を受け入れること」であった。キリスト者にとってその圧倒的存在は神である。『灰羽連盟』が示す「救い」に、私たちはどのように呼応し、「愛」を伝えていくことができるだろうか。

(上坂栄太「いつかみ聖書解説」制作チーム LampMate(https://itukami.lampmate.jp

【作品情報】灰羽連盟

 高い空からまっすぐに落ちていく少女。やがて彼女は水に満たされた繭の中で目を覚ます。古びた建物の一室で彼女を迎えたのは背中に飛べない灰色の羽を持つ、「灰羽」と呼ばれる人物たち。繭の中で見ていた空を落ちる夢から、少女は「ラッカ」と名づけられる。高い壁に囲まれたグリの街、灰羽たちの暮らすオールドホーム、そこでの仲間たちとの穏やかな日々。戸惑いながらも少しずつその生活に馴染んでいくラッカ。しかしやがて、短い夏の終わりに一つの別れが訪れる。

■原作者:安倍吉俊
■テレビアニメ監督:ところともかず
■アニメーション制作:RADIX
■放送期間:2002 年10 月~ 12 月
■放送局:フジテレビ系列
■話数:全13 話

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