米大統領選 ジョー・バイデン候補に軍配 郵便投票と祈りで勝利 2020年12月1日

 論争を巻き起こしながら、開票に数日を要したアメリカ大統領選挙。ジョー・バイデン候補(カトリック信徒)の信仰者たちへの呼びかけは激戦地で功を奏した。ドナルド・トランプ氏は(結果について)法廷で争う構えだ。

 選挙4日前、支持者たちに「信じてほしい」と語った民主党のバイデン氏は、この「国民の魂を賭けた戦い」でトランプ氏を打ち破った。ミシガン州、ウィスコンシン州、そしてペンシルベニア州の激戦区では郵便投票による集計の遅れがあったが、生涯カトリックとしての信仰を持ってきたバイデン次期大統領は支持者の心をとらえ、パンデミック予防策がとられながらも稀に見る高い投票率を記録した選挙で現職のトランプ大統領に勝利した。米「クリスチャニティー・トゥデイ」の記事より翻訳、転載する。(原文=ケイト・シェルナット、ダニエル・シリマン/翻訳=原口建・クリスチャンプレス)

 バイデン次期大統領(78歳)は、「アメリカの皆さん、私たちの偉大な国を率いるリーダーとして私を選んでくださったことを光栄に思います」とツイートした。そして「私たちの前には山積みの課題がありますが、私は皆さんに約束します。あなたが私に投票したかどうかにかかわらず、私はすべてのアメリカ人の大統領として働くことを。私は皆さんの信頼を裏切りません」と付け加えた。

 元副大統領でもあるバイデン氏は勝利演説で「団結すること」を強調し、トランプ支持の有権者に対して「私にチャンスを与えてほしい」と呼びかけ「何事にも時がある」という聖句(コヘレト3章)を引用しつつ、今は「癒やす時」である、と語った。

 またバイデン氏は演説の中で自身の愛唱賛美歌でもある「鷲の翼」(カトリック)の詩を紹介している。「彼(神)はあなたを鷲(わし)の翼の上に導き、夜明けの息吹の上で支え、太陽のように輝かせ、御手(みて)の中で抱く」

 トランプ氏は声明で「この選挙はまだ終わっていない」として激戦区での投票結果について法的に争う姿勢を見せ、バイデンの勝利を拒否した。選挙人団の得票数ではトランプ氏が獲得したのは214票、一方のバイデン氏の得票数は270票を超えている。

 トランプ氏に対する福音派白人層、「ボーンアゲイン」(「生まれ変わり」を体験した)クリスチャン層の支持は81%(AP通信VoteCast調べ)と安定していたが、バイデン陣営はプロテスタント黒人層、カトリック教徒層、そして「トランプ阻止」活動を強めてきた一部の福音派層(前回の選挙ではトランプやヒラリー・クリントン以外の候補者に投票した人々)の働きに後押しを受けた。

 ヒラリー候補(2016年)やジョン・ケリー候補(2004年)の選挙戦とは異なり、バイデン陣営は「信仰を持つ有権者層」に向けたメッセージをここ数十年では類を見ないほど数多く発信しており、福音派系メディアや新聞広告ではバイデン氏の信仰について彼自身の言葉が多く掲載されてきた。

 バイデン氏の支持率はカトリック教徒白人層の間で支持率が拮抗するまでに上がり、ヒスパニック系カトリック層では有権者の3分の2以上(AP通信VoteCast調べ)を獲得している。

 バイデン氏陣営のキャンペーンは、人格や道徳、そして「アメリカの魂」を回復する必要性を強調してきた。そしてバイデン氏は「信仰は暗闇の中でこそ輝く」という哲学者セーレン・キェルケゴールの言葉を引用し、希望、謙虚さ、そして思いやりを持って、個人や国家を襲う悲劇にどう対応したらいいのか、語ってきた。

 福音派トランプ支持者にはバイデン氏の勝利に異議を唱えた者もいたが、開票が続くにつれて、選挙結果を認め国民として団結するよう訴える者も出てきた。郵便投票の集計が終わらないいくつかの州で劣勢が明らかになった後、トランプ大統領が異議を唱えたことについて、南部バプテスト神学セミナーのアルバート・モーラー会長は「きちんとした調査もせずに『これは不正投票だ』と告発すること」に反対し、「それはアメリカにとって大きな脅威だ」と語った。

 土曜日(11月7日)の朝にペンシルベニア州におけるバイデン勝利が確定した後、フランクリン・グラハム氏は、「誰が大統領に選出されたかに関係なく、アメリカ国民が一致することを願っている」とツイートした。

 トランプ大統領に反対する保守派やクリスチャンのグループも存在感を増している。フラー神学大学のリチャード・モウ前会長は「中絶に反対する福音派バイデン支持グループ」に加わった一人だ。同氏は言う。「バイデン氏は『本物の信仰を持っている』と見なされています。彼は多くの福音派信徒が思い描くような保守的カトリック信徒ではないかもしれませんが、彼が信仰について話す時、それは本物の信仰のように思えるものなのです」

 バイデンを支持する福音派信徒たちは、トランプ大統領のレトリックを「毒々しい」として、キリスト者としてバイデン氏の人種差別や医療、貧困、移民、気候変化に関する立場を支持するとした。中絶について民主党の政策に同意できなかったとしても、貧困層に対する経済政策や強力な社会的セーフティネットを提供する政策などを通じて、(民主党を支持しながら)中絶反対を貫くことは可能だ、と語る者もいる。

 ヒスパニック系福音派クリスチャンで、クリスチャン移民支援団体「チューズウェルカム」(テキサス州)のメンバーでもあるアリシア・バートン氏は「トランプ大統領の移民政策や、南の国境からやってくる移民に対して彼が醸し出した論調を見た時、この選挙で私は誰を支持するのかが決定的になりました」と語る。

 バートン氏は中絶に反対しており、2016年の選挙ではサードパーティー(二大政党以外の候補者)に投票したが、今回の選挙ではバイデン氏に投票した。「政府が国境を維持する役割を担っているのは分かりますが、家族が離れ離れにされたり難民の受け入れが大幅に減少したことは、私にとって受け入れがたいことでした」と言う。ヒスパニック系福音派層の投票結果は州や背景によってさまざまだが、全体では61%(AP通信VoteCast調べ)がトランプ大統領を支持し、フロリダなどの州におけるリードが広がる要因となった。

黒人系教会の情熱と祈りも追い風に
〝教会で和解と一致が起こるために〟

 バイデン氏の力になったのは黒人系教会の情熱と祈りだ。選挙の前日には何百人もの人々(主に黒人女性)がバイデン候補の勝利を祈る会に参加した。「これは、恐れることなく信仰を持って勝利に向かう私たちの祈りです」と、アフリカン・メソジスト教会とユナイテッド・メソジストの信徒リーダーでもあるマイケル・ブレイク氏(民主党全国大会副議長)は語った。プロテスタント黒人層は、その他の層と比べて投票理由を「トランプに反対する」からではなく「バイデンを支持する」からだと答える率が2倍ほど高かった。

 選挙に先立って行われたライフウェイ社の調査では、アフリカ系など非白人福音派層は、アメリカ大統領選挙初の「黒人とアジア系の混血女性」であるカマラ・ハリス氏を副大統領として持つバイデン氏を支持する可能性が2~3倍高いことが分かっている。

 白人至上主義者グループからの支持を受ける中で、トランプ大統領がとった人種差別への対応について、有色人種のキリスト教徒は批判を強めてきた。そしてこの夏、「人種差別」と「警察による暴力」がクローズアップされるなかでBLM運動や教会における差別に反対する取り組みはさらに活気づけられた。

 トランプ大統領がホワイトハウスを去っても、その取り組みが終わるわけではない。テキサス州バプテスト総会の元公共政策担当者であり、今はベイラー大学で神学を学ぶキャサリン・フリーマン氏は語る。 「思わぬ結果が出たことで2016年の選挙はひどいものになりましたが、今回の選挙では有色人種のクリスチャンはハッキリと決断することができたと思います。バイデンが勝利しても、教会でやるべきことはまだまだたくさんあります。教会で和解と一致が起こるためには正義と平和構築への取り組みが必要ですし、有色人種のクリスチャンたちはそのために引き続き声を上げていくでしょう」

写真=David Lienemann(ホワイトハウス)

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