【映画評】 持続と収穫の文化力 《ポーランド映画祭2020》 2020年12月31日

 多くの業界がそうであるように、2020年は映画界にとっても受難の年となった。全国の映画館が長期間にわたる休業・席数半減での営業を余儀なくされ、製作現場もまた多くが凍結された。外出自粛や「3密」回避が叫ばれ、作品受容のスタイルとしてインターネットを介した自宅鑑賞が急速に一般化し、世界の主要映画祭を含む多くの国際的な映画イベントはオンラインへと移行した。

 こうした中、ポーランド映画祭2020が例年通り、秋深まる恵比寿の東京都写真美術館にて開催された。コロナ禍を受け規模は縮小され、ポーランド本国からの招聘ゲストが壇上へ居並ぶ例年の光景こそみられない。しかし継年開催を途切れさせず、先が読めないこの状況下で映画祭運営をやり遂げた実績は必ずや今後に活きるだろう。

“Dekalog”

 9回目となる今年のポーランド映画祭では、巨匠クシシュトフ・キェシロフスキの全585分に及ぶ大作『デカローグ』の全編上映が目玉となった。キェシロフスキはアンジェイ・ワイダやロマン・ポランスキーらと並ぶポーランド人監督の代名詞的存在ながら、全10部に及ぶ代表作『デカローグ』が劇場にかかる機会は稀である。旧約聖書の十戒に由来するその物語はいずれも寓話性に満ち予言的であり、旧共産圏崩壊のさなかに撮られた30年前の映像群がもつ緊張感は驚くほど今日性を有している。

 また昨年11月はローマ教皇38年ぶりの来日が注目されたが、今回上映の『ヨハネ・パウロ2世 あなたを探し続けて』ではポーランド出身の彼こそ、現教皇フランシスコも継ぐ教皇外交文脈の起点となったことが説得的に描かれる。キリスト教関連で続ければ、国内初公開となった『聖なる犯罪者』(来年1月全国公開)=写真下=は、少年院仮釈放の身分を隠し司祭になりきる青年を主人公とし、カトリック国家ポーランドの諸相が垣間見える秀作だ。

 ポーランド出身の世界的著名人にスポットを当てた作品としては、『ソラリスの著者』も大変興味深い。20世紀のSF小説を牽引したスタニスワフ・レム本人が、実人生において身分証を偽造しナチス期ポーランドをレジスタンス側で生き延び、ソヴィエト時代にもスターリン風刺の寸劇を身内で上演した来し方を語り切る。稀代の想像力は、露見即極刑の状況で一層加速したかと納得の貴重映像だ。

“Wszystko moze sie przytrafic” “Anything Can Happen”

 なお日本では無名の存在ながら、孤高の履歴を誇るドキュメンタリー監督マルツェル・ウォジンスキの短篇上映が、筆者個人としては一番の収穫であった。上映短篇3作は各々社会主義政権下の1980年、民主化後の1995年、2009年の製作で、国営ラジオに属しながら反体制を貫いた姿勢の鋭さと、伊丹十三やジャン・ルーシュを想起させる映像作家としての技量の高さに驚かされた。その驚きはまた、こうした人物が東欧圏には国外に知られることなくなお多く存在するだろうことを予感させ、その稀少な紹介・発見機会としての映画祭の価値を再確認させられもする。

 実際、同じ欧州圏でも例えばフランス・イギリス・ドイツ・イタリアなどは大使館とは別に独自の文化機関を東京に置き、継続的な文化企画に固定予算を割き続けるのに比べ、経済的に順風満帆とも言えない東欧各国がこれに対抗することは難しい。しかし繰り返しになるが、だからこそ本映画祭が継年開催される意義は大きい。次にみる作品はどんな世界をみせてくれるのか。その楽しみは希望そのものだ。

 文化の力はどの時代であれ、苦境においてこそ人々を最も勇気づけ、救いあげてきた。そのために尽力し、今この瞬間にも世界の多くの現場で格闘する人々がいることに心からのエールを送りたい。(ライター 藤本徹)

『聖なる犯罪者』は1月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷ホワイト シネクイントほかにて公開。以降全国順次。

ポーランド映画祭2020 (東京都写真美術館ホールにて11/20-26開催)
公式サイト:http://www.polandfilmfes.com/

本稿筆者による作品別連続ツイート:

本紙過去記事 ポーランド映画祭2013

ポーランド映画祭2013 1960年代の作品中心に 2013年11月16日

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