【ヘブル語と詩の味わい⑩】 三行詩(2)「修辞的挿入」津村俊夫(『新改訳2017』翻訳編集委員長・聖書神学舎教師)

三行詩(2)「修辞的挿入」(AXBパターン)

 

 ヘブル詩の三行詩について考えて行く中で、三行間の関係をどう考えれば良いのか理解に苦しむ場合が多々ある。そのようなものの一つがAXBパターンである。

 このパターンは散文に於ける「修辞的挿入」の現象として特徴づけられるものである。AとBが統一体を構成しているとき、通常の場合、AとBの間には何も割り込めない。例えば、A of Bという二つの名詞によるヘブル語の合成句である derek šekmāh  「シェケムへの道」 (AB)の間に、動詞 yəraṣṣəḥû「人を殺す」(X) が挿入されて、AとBの連続性を中断し

              derek yəraṣṣəḥû- šekmāh     シェケムへの道で人を殺す。

という表現になる場合である。

 このような場合、AからBへの流れがXによって「中断」され、ある種の緊張がもたらされる。その時、読者(または聴衆)は「いつ」Bが来るのかへの「期待」と「不安」をいだく。と同時に、Xは、AとBが分離された後も、AB全体に関わりを持つ。このようなAXBパターンは、ヘブル詩の並行法の技巧の中にも組み込まれ, A // X // B というパターンになる。二つの例を挙げて具体的に考えて行きたい。

 

1サムエル 2:3a

おごり高ぶって、

多くのことを語ってはなりません。

横柄なことばを口にしてはなりません。(新改訳2017)

 

あなたがたは驕り高ぶってはなりません。

思い上がって語ってはなりません。

その口から高慢な言葉を

              取り除かなければなりません。(協会共同訳)

 

ヘブル語の語順にしたがって直訳すると、

A ʾal-tarbû tədabbərû    …あなたがたは多く/大きく語ってはなりません。

X  gəbōhāh gəbōhāh       高く 高く                                                                      

B  yēṣēʾ ʿātāq mippîkem  横柄なことばが口から出るように(してはなりません)。

となる。ここでは二行目のXは、A // B という二行詩全体に関わっている。

 同じように、

詩篇 40:6

A あなたは いけにえや穀物のささげ物をお喜びにはなりませんでした。

X あなたは私の耳を開いてくださいました。

B 全焼のささげ物や罪のきよめのささげ物をあなたはお求めになりませんでした。 

(新改訳2017)

7) いけにえも供え物も、あなたは喜ばれず

私の耳を開いてくださった。

  焼き尽くすいけにえも清めのいけにえも

あなたは求められなかった。                                       

(協会共同訳) 

 ヘブル語原文は三行詩で、一行目と三行目が対応していることは一目瞭然である。一方、二行目はその前後の行とは明らかに「異質の」行である。これは「修辞的挿入」AXBパターンの三行詩と考えることによってその意味する所も明らかとなる。

 詩人はここで、神が「いけにえ」を喜ばれる方ではなく(1サムエル15:22参照)、神のことばを聞くようにと、「耳を開いてくださった」のだと告白しているのではないか。A行とB行の間に、全く異質なX行が入り込んできて、AとBの並行関係を阻止するX行こそA // Bという二行詩全体に意味の上で深く関わっている。

 

つむら・としお 
1944年兵庫県生まれ。一橋大学卒業、アズベリー神学校、ブランダイス大学大学院で学ぶ。文学 博士(Ph.D.)ハーバード大学、英国ティンデル研究所の研究員,筑波大学助教授を経て、聖書神学舎教師。ウガリト語、 旧約聖書学専攻。聖書宣教会理事、聖書考古学資料館理事長。著書に『創造と洪水』『第一、第二サムエル記注解』など。

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