性差別テーマに僧侶交え討議 教会でも「わきまえ」ず声上げ続けよう 2021年2月13日

 いわゆる「牧師夫人」問題や、仏教界にも通じるさまざまな性差別について、当事者が体験してきた事例を交えつつ、新しいあり方について討論するトークライブ牧師&僧侶&弁護士が宗教界の根深い差別構造をぶった切る!(キリスト新聞社主催、春秋社、大月書店後援)が2月6日、オンラインで開催され約80人の関係者が参加した。

 ゲストとして、牧師の妻であり伝道者である山本百合氏(仮名)、落語家で天台宗僧侶の露の団姫(つゆの・まるこ)氏、浄土真宗本願寺派僧侶の西永亜紀子氏(築地本願寺職員)、弁護士の太田啓子氏の4人が登壇。司会は本紙編集長の松谷信司氏が務めた。奇しくも、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言とタイミングが重なったこともあり、「わきまえない女」たちによる白熱トークが繰り広げられた。

 口火を切ったのは、2児の母であり、「男らしさ」の呪縛から自由になるための子育てエッセイ『これからの男の子たちへ』(大月書店)を執筆した太田氏。「私自身は子どもたちに『男らしく、女らしく』という価値観を刷り込みたくないんですが、子どもたちの中になぜか、いつの間にか刷り込まれてしまう。こうした性差別の問題は、家庭だけでなく、社会全体がジェンダー平等意識を持たないと変わらないと思います」

【書評】 『これからの男の子たちへ:「男らしさ」から自由になるためのレッスン』 太田啓子

 「男らしく」「女らしく」といった、性別を主語に置いた価値観が根深いのは、宗教界も同じだ。子どものころから、結婚すると女性が男性の姓に変わることに対して違和感があったと話す団姫氏は、著書『女らしくなく、男らしくなく、自分らしく生きる』(春秋社)で、性別に関係なく、本当に自分らしく生きるために模索する姿を描き、話題を集めた。

 「企業の吸収合併に似ていると思うんです。対等とは言いながら、名前が残っている方が立場が強い。家制度はとっくに廃止されているはずなのに、宗教界ではいまだ当たり前に受け継がれていることも問題です」

【書評】 『女らしくなく、男らしくなく、自分らしく生きる』 露の団姫

 赴任先の教会で、当初、名前ではなく「牧師夫人」と呼ばれてたという山本氏。「いまだに牧師の妻というものは365日24時間教会にいて、お茶出しやお掃除、ゴミ捨てをするのが当たり前と考えている人がほとんど。『奉仕』だから報酬はなくて当然という考え方です。男性と同じように神学校で学んでも女性は牧師になれなかったり、結婚したら牧師職を返上しなくてはいけない時代もありました」

 結婚17年目で離婚に踏み切ったという西永氏も、「浄土真宗では住職の妻は『坊守(ぼうもり)』と呼ばれ、夫が地方の出張所に勤めることになると必ずついていき、仕事をせずに夫を手伝わなくてはなりません。夫のお給料に振り込まれる、数万円程度の『坊守手当』が報酬です。手当は要らないから仕事をしたいと言っても受け入れられない。雇用契約を結んでいるわけではないのに、話し合う余地がないんです」

 一方、現状の「わきまえている女」であることに満足している女性もまだ多く存在すると山本氏らは語った。「私が感じるのは、性差別的な慣習や歴史とか、暗黙のしきたりのようなものに縛られているということ。それを教義で無理やり正当化してしまうのは、逆に宗教に対する冒とくではないかと思います」と太田氏。

 西永氏も「ルール的には男女平等とされていても、深く根付いた『慣習』を変えるのが本当に難しい」と同意し、まずは変わらなければという危機意識を持つことが必要だとの意識を共有した。

 日本では宗教にかかわらず、いまだ「男社会」の価値観が根強い。多くの場合、何か物事を決める際は男性が決定権を握っている。だからこそ、件の森発言があったのではないだろうか。しかし、キリスト教界隈では、定年後に献身する高齢男性が増加傾向にあると山本氏は話す。「このままだと時代に逆行して、ますます解決が先送りされるんじゃないかと感じています」

 こうした負のスパイラルによって、若い世代には牧師も教会も魅力的なものとは映らず、教会から離れてしまうきっかけにもなりかねないと松谷氏。「キリスト教を信じて聖書を読んでいるけれど、教会のリアルなコミュニティには関わらないという信徒が増えています。コロナ禍の影響で礼拝がオンライン化されるようになり、教会も淘汰される時代になりました。特定の教会に所属しない若手のクリスチャンや、牧師になりたいのに従来の制度ではなれなかった人たちから、機運が盛り上がっていくことを期待しています」

 諦めず、声を上げ続けることが重要だと太田氏は強調する。「すぐには花開かないかもしれないけれど、届いている人は絶対にいるはずです。何が問題か分かっていない人はひとまず横に置いておいて、次の世代をちゃんと育てること。20年後に性差別意識を持たない人々を増やしていくことに意味があると思う。声を上げるには、まず身近な人に自分のストーリーを話すこと。その後で、『これはあなたにも関係がある問題で、今こそ変えるべきタイミングだ』というように伝えると効果的です」

 声を上げ続けることで「面倒な女」と思われることもあるが、「面倒な女になることって大事ですね」「私はわきまえない女であり続けようと思います」と団姫氏。

 松谷氏は「先の長い話だと思いますが、気長に声を上げ続けていきましょう。男性も当事者として声を上げるべきだと思います。男性の中にも、同じように問題意識を持っている人はいると思いますので、次回はぜひそういう方々にも登壇してもらえたら」と締めくくった。(クリスチャンプレス・河西みのり)

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