新たな「死海文書」断片を発見 専門家ら今後の可能性も示唆 2021年3月18日

 イスラエル考古学庁は3月16日、十二小預言書「ゼカリヤ」「ナホム」を含む新たな聖書断片を発見したと公表した。「恐怖の洞窟」と呼ばれる発見地からは同時に、6千年前の子どものミイラ、また西暦133~135年ごろとみられるコインが発見された。

 イスラエル現地メディア「ハアレツ」紙によると、1952年以来の小預言書の巻物の欠落部分の可能性もある。1947年の発見以来、巻物の復元など緻密な作業と研究蓄積により、現在「死海写本」の一部はデジタル公開されている。

 今回の発見について、ユダヤ文献学・思想を専門とする手島勲矢氏は、「ギリシア語版・預言者は大文字写本が冊子でしか残っていないので、とても示唆的で、その古さとユダヤ人の感覚を伝えるもの。キリスト教以前の『聖書』的伝統を感じさせる一方、文献学者としては死海写本が発見されたから、すぐにオリジナルにより近づくとは考えない。今回の発見は、あくまでもギリシア語の聖書に関するもの、つまり翻訳の位置付けに関して価値ある発見だ」と指摘する。

 また、テルアビブ大学で講師を務める山森みか氏(イスラエル在住)は、「巻物本文はギリシア語で書かれ、神名だけがヘブライ語だと聞く。現在英語で書く時さえ『YHWH』と転写され、発音するのもはばかられる『神聖四文字』の問題ではないか。固有性の極みと言うこともできる。仮に発音が判明していても、この唯一性を保つために翻訳はできないかもしれない。発見された場所は非常にアクセスが悪いので、盗掘を免れた巻物や断片などが今後発見される可能性もある」と言う。

 ギリシア・ローマ時代のユダヤ・キリスト教文学の専門家である加藤哲平氏は次のように語った。「報道によると、この新発見の断片はかつて『恐怖の洞窟』で発見された十二小預言書のギリシア語訳写本の一部と同定されているという。もしそうなら、今回の発見は本当の意味での『新』発見ではなく、すでに発見されている重要写本の欠損部分が後から見つかったということになる。しかし、そもそもこの写本(いわゆる『ナハル・ヘヴェル写本』)は聖書の本文批評にとって偉大な発見だった。というのも、この写本は当時流布していた『七十人訳』ではなく、よりヘブライ語テクストに近いいわゆる『カイゲ・テオドティオン訳』を反映しているから。実際、今回の断片を分析した研究者も七十人訳との文言の相違を見出したそう。今回の発見は、紀元前後の聖書翻訳が画一化されておらず、いかに流動的だったかを教えてくれる貴重なものといえるだろう」

 現地メディアなどの報道によれば、新断片にはゼカリヤ8章16節「あなたがたのなすべき事はこれである。あなたがたは互に真実を語り、またあなたがたの門で、真実と平和のさばきとを、行わなければならない」(口語訳)が含まれている。

動画:イスラエル考古学庁ヤニフ・バーマン氏による探索の紹介

Video clip of the expedition (Credit: Yaniv Berman, Israel Antiquities Authority) from JERUSALEM POST: https://www.jpost.com/archaeology/israel-finds-2000-yr-old-biblical-manuscripts-662148

協力:
手島勲矢(大阪大学COデザインセンター招聘教授)『中東・オリエント文化事典』ほか、共編著多数。
山森みか(テルアビブ大学講師)『「乳と蜜の流れる地」から――非日常の国イスラエルにおける日常生活』ほか、共編著多数。
加藤哲平(日本学術振興会特別研究員PD)著書『ヒエロニュムスの聖書翻訳』ほか。

画像:イスラエル考古学庁シャイ・ハレヴィ氏撮影 Photo:Israel Antiquities Authority, Shai Halevi

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