【東アジアのリアル】 マレーシアの「華人教会」? 葉 先秦 2021年4月1日

 マレーシアはマレー人、華人、インド人、先住民などで構成された多民族国家として、世界的によく知られている。イスラム教を国教としながらも、それぞれの信仰が認められ、生まれつきのムスリムであるマレー人を除くと、他の民族(エスニック集団)は信教の自由が与えられている。総人口の23%を占めている華人の中の7.5%はクリスチャンと言われており、首都圏のクアラルンプールとその周辺の多くのメガチャーチの主任牧師も華人である。

 私の理解では、マレーシア地元の華人が参加している教会を「華人教会」と呼ぶのは、やや不適切だと思う。一般的に華人教会とは、海外に生活している華人や華僑の世話になる同郷会の役割を担った教会を指す。他に、教会論から見ると、華人教会は華人クリスチャンの集合体という意味である。しかし、私はこの定義が地元のコンテキストに合わなく、それを吟味する必要があると思う。

 まず、多数のマレーシア華人は、自分自身は他国への移住者あるいは華僑ではなく、多民族社会の中での地元民族として、64年前にマレー人とインド人と一緒にこの国家の独立を果たした、というアイデンティティーをもっている。それゆえ、彼らの教会は、欧米でよく見られる同郷会の役割を担った華人教会とだいぶ違い、地元の教会であることは明らかだ。

アッセンブリーズ・オブ・ゴッドの民族混成による礼拝(マレーシア・カヤン)

 次に、マレーシアにおける“Chinese Church”といえば、民族志向の教会ではなく、「中国語教会」(マレーシアの中国語で中文教会)ということである。実は、マレーシア華人であるからといって、みんな中国語教育を受けるわけではなく、マレー語と英語を教授言語とする国民中学校や英語を使う国際学校に通う人も多い。華人クリスチャンの中の多くの人は英語を用いる多民族混成の礼拝に参加し、その主任牧師も信者の多数が華人であっても、「華人教会」と呼ばれない。なぜなら、そのような教会の集会にいったいどのぐらいの華人がいるかという統計をとるのはたいへん困難であり、民族別にメンバーの人数を数えることも意味のないことだからである。

 本質的に、そのような教会はまったく民族志向ではなく、むしろ「言語志向」と言える。つまり、中国語教会という意味であるChinese Churchは同じような言語志向を指すだけであり、華人を他の民族から区別するということではなく、華人の中での中国語話者と英語話者を分けてきた。同様に、地元の “Tamil Church”はタミル語教会という意味であり、礼拝者はタミル人に限らないのである。

 確かに、マレーシアの中国語教会のリーダーの中には、自分の教会を華人教会と呼ぶ人もあるが、それは、彼らが外国の華人クリスチャンや組織(例えば「世界華人福音センター」など)に地元のキリスト教の現状を知らせる際に、便宜上、分かりやすい「華人教会」の名称を使っているのだ。

 そもそも、マレーシアには中国語教会も英語教会も含めて華人クリスチャンが参加する教会を包括する統一的な組織はないため、全体的な華人教会というものは存在しないと私は考える。実際には、自分の教会を華人教会と呼ぶ中国語教会のリーダーが把握できる教会は中国語教会ばかりであり、そこには英語教会に参加している華人は含まれていない。

 しかし、マレーシアでは華人かどうかが言語別使用により決められるのではなく、英語を使える華人も華人と認定されてきた。誰もが生まれてすぐに、出生届の上に、民族別に書かれてしまうからだ。つまり、「華人教会」という称号は、マレーシアの現実と異なっているのだが、その称号のせいで地元の華人は移民、華僑と誤解されたり、華人の参加する教会が海外の同郷会の役割を担った華人教会と見なされたりすることがあるのだ。

葉 先秦 Iap-Sian Chin 1981年生まれ、台湾新北市出身。中原大学(台湾・桃園市)修士課程で、ペンテコステ派の神学と歴史の研究。政治大学博士課程で真耶?教会をテーマに博士号。現在、政治大学華人文化主体性研究所特任研究員。

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