【東アジアのリアル】 「武漢肺炎」か「新型コロナ肺炎」か?――病名から見る台湾教会のイデオロギー 鄭 睦群 2021年10月11日

 2020年1月21日、台湾でもCOVID-19の初の感染者が出てからというもの、今に至るまで ウイルスとの戦いは続いている。台湾は2003年にSARSという感染症が流行した悲惨な経験があり、そのため今回は中央政府・地方政府そして国民全体の強い協力、さらに諸外国の協力もあり、現在台湾は感染状況をコントロールできていると言えよう。1日も早く台湾、そして全世界が元の生活を取り戻せるよう切に願うばかりだ。

 このウイルスが人為的なものなのか、それとも自然災害なのかはさておき、このCOVID-19が中国で発生したことは明白であり、そのためCOVID-19は当初「武漢肺炎」と呼ばれ、中国政府も当初はそのように呼んでいた。WHOは2020年2月11日、この病気の名称を「2019冠状病毒(2019コロナウイルス)」、英語での略称をCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)と定めた。そのねらいは、「名称中に地域(例えば「中国」「武漢」など)、人種、動物種などの使用を避けることで、汚名を着せないようにするため」である。

 WHOが名称を調整したことと、さらに中国政府の強力な宣伝も相まって、現在のところ中国語圏の国際社会では「新型コロナ肺炎」(新型コロナウイルス肺炎)という名称が広く使用されている。しかし、台湾において「武漢肺炎」と「新型コロナ肺炎」という名称の使用者はグループがそれぞれに異なり、その背後から脈絡とイデオロギー差が見て取れるのだ。「新型コロナ肺炎」へ名称変更を支持する人々の多くは、「武漢肺炎」は差別的であり汚名を着せていると考えており、また「武漢肺炎」を使い続ける人々は、この病気の発生源が武漢であり、さらに言えば中国政府の隠蔽によりウイルスが拡散されたことから、「武漢肺炎」とは単に事実と常識に基づいた名称であると表明している。明らかに、「武漢肺炎」及び「新型コロナ肺炎」にはそれぞれに支持者がおり、台湾のキリスト教会も実はそれと同じ様相を呈している。台湾の2大キリスト教新聞である『台湾教会公報』=写真下=と『基督教論壇報』がその明らかな例だ。

 『基督教論壇報』は1965年に創刊、その主旨と現在の経営基盤及び読者層から判断するに、この刊行物はいわゆる「中国語〔北京語〕使用教派」のニュース媒体に属すると言え、中国大陸寄りである。『台湾教会公報』は1885年に創刊された台湾基督長老教会(以下、長老教会)の公式メディアである。長老教会の礼拝では主に台湾語が使用され、さらにその政治的立場は現政権を担う民進党寄りであるため、中国の台湾圧政には批判的で、香港の人権政治問題にも関心が高い。

 『基督教論壇報』も当初「武漢肺炎」との名称を使用していたが、WHOが正式名称を発表した後、すぐに「新型コロナ肺炎」と改めた。しかし、『台湾教会公報』は徹頭徹尾に「武漢肺炎」の使用を続け、今に至るまで変わっていない。COVID-19に関するこの2紙の最も大きな違いは、『台湾教会公報』は報道にとどまらず、社説や投書に至るまで中国政府をストレートに批判しているが、中国国内の教会に関心を寄せる『基督教論壇報』は、中国政府のCOVID-19の責任についてほとんど言及せず、コロナに関連する事項は台湾教会の時事問題や信仰問題にのみ登場している。総括して言えば、信仰とはまったく無関係に、ただ「中国に関連する」ことこそが、この2紙におけるCOVID-19の報道姿勢が大きく異なる要因となっている。これこそ台湾の特殊なイデオロギー形態と国家意識を如実に表していると言えよう。

 最後に、6月から行われている日本から台湾へのワクチン供与に心から感謝をすると共に、日台友好の永続と、このパンデミックを克服するために共に手を携えていくことを祈っている。(翻訳=笹川悦子)

 てい・ぼくぐん 1981年台湾台北市生まれ。台湾中国文化大学史学研究所で博士号取得。専門分野は、台湾史、台湾キリスト教史。現在、八角塔男声合唱団責任者、淡江大学歴史学部と輔仁大学医学部助教、台湾基督長老教会・聖望教会長老、李登輝基金会執行役員、台湾教授協会秘書長。

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