【論点2022】 壁を越え続けて10年 東日本大震災国際神学シンポジウム 大災害後に問われる神学 藤原淳賀(青山学院大学教授) 2022年2月1日

 2011年3月11日、1000年に1度といわれる東日本大震災が起きた。日本全体が揺り動かされた。海外からも多くの救援物資が届いた。「この状況の中で何かをしなければならない。自分に何ができるだろうか」。あの時、皆そう思った。キリスト教会も協力し、さまざまな壁を越え、人々に仕えた。

 東日本大震災国際神学シンポジウム(以下シンポジウム)は翌2012年3月、震災直後に「何かできることはありませんか?」とお声がけくださった米フラー神学校と共に、聖学院大学総合研究所、東京基督教大学、DRCnet(災害救援キリスト者連絡会/お茶の水クリスチャン・センター)の主催で、プロテスタントの主流派と福音派の壁を越えて始められた。

 神がこの大地震が起こることをお許しになった。この痛みの中で日本の教会はいかに応答すべきか。神はすでに私たちのために働いておられる。私たちは神に応答しなければならない。そう思った。もし主が再臨を待たれるなら、子どもたち、孫たち、ひ孫たちが、「あの大震災の時、教会はどう対応したの?」ときっと問う。そしてみ前に立つ時、主ご自身がそのことを問われる。私たちの世代が今すべきこと。それは何か。

2020年開催の第6回シンポジウム

「キリストさん」として外に出ていく
顔の見える関係作りと次世代育成

 フラー神学校が連絡をくれた2011年4月は、まだ泥かきが必要な段階だった。しかし、神学的対話の場を作りたいと応答した。皆、痛みの中で生きていた。支援活動の報告だけでなく、学者のための議論でもなく、分かりやすい言葉で大震災と現状を聖書的、神学的に捉え、人々と教会に寄り添い仕えていく神学的対話を行うことを主たる目的とした。

 あの大震災の時、結局は顔がつながっている人たちとの関係が大切だった。そのための場を作り、人々がつながり、信頼関係を作ることが重要だと思った。プロテスタントの中だけでも、主流派と福音派、そしてカリスマ派。またカトリックとプロテスタント、そして正教会。私たちは開国宣教以来160年の間、わずか1%のキリスト教人口の中に多くの壁を作ってきた。しかし、大震災で壁を越えて協力した。放っておいたら元の壁の中に戻ってしまう。協力関係を継続させていく意図的な場が必要だと考えた。それぞれの伝統を大切にして互いに敬意を持ちつつ、壁を越え、できることは共に行う。それが大震災を経験した日本の教会がなすべきことだと考えた。

 初回からプロテスタント福音派と主流派が協力し、第2回からはカトリックの講師も招いて話を聞き、交わりを持っている。第3回以降は、阪神・淡路大震災を経験した神戸でもシンポジウムを継続してきた(今回も関西ミッションリサーチセンター共催)。

 100年先を見据える時、次の世代が育っていなければならない。第3回から「青年の部」が始まった。福音派と主流派の壁を越えて、青山キリスト教学生会(ACF)、学生キリスト教友愛会(SCF)、キリスト者学生会(KGK)が中心となっている。学生時代に一緒に奉仕する経験は一生の関係につながる。「20歳前後の自分たちが、40歳になった時には、日本の教会を背負っていく」。そのような気持ちで青年たちはこの会を今年も催してくれている。

 99%の日本人にとって、私たちは「キリストさん」だったということを理解した。「『キリストさん』がようやってくれた」という声を被災地でよく聞いた。彼らにとって、教団・教派は関係ない。カトリックとプロテスタントの違いもよく分からない。 教会共通のアイデンティティーとしての「キリストさん」を理解した。同時に教会は外へ出ていくことを学んだ。以前は人々を共同体から離して、教会へと招き入れることが多かったが、物資を持って人々に仕える経験から、外に出て人々のニーズを満たすことを学んだ。

 啓蒙主義的発展史観は、理性によって科学によって問題を解決し、人々を痛みから解放できると考えた。しかし震災、洪水、噴火といった自然災害、また戦争、飢餓、疫病の苦難は人類と共にあった。災害が起こった時、教会はいかにして痛んだ人々に寄り添ってきたのかという歴史理解が求められる。また、自らの信仰の特徴についての理解も欠かせない。開国後のプロテスタント宣教には、「世界で成功している国々にはキリスト教と民主主義がある。勝ち組に入るにはキリスト教と民主主義が必要だ」とのアプローチもあった。これは戦後にも見られた。日本の初期プロテスタンティズムには、福音主義、敬虔主義、ピューリタニズム、エキュメニカルな伝統と共に成功主義的要素もあった。

 大震災から11年。さらにこの2年はパンデミックに翻弄され続けている。礼拝に集まることさえできない状況下で、大災害をいかに捉え、もう一度立ち上がり、神を愛し隣人を愛し、前に進むことができるのかを考え、分かち合う時となることを願う。

 ふじわら・あつよし 慶應義塾大学大学院、ダラム大学神学部大学院卒業(Ph.D.)。東日本大震災国際神学シンポジウム代表。

【第7回東日本大震災国際神学シンポジウム】
 「いかにしてもう一度立ち上がるか――これからの100年を見据えて」2月7日(月)午後1時~6時半、Zoom(無料)。講師=アリスター・マクグラス(オックスフォード大学教授)、菊地功(カトリック東京大司教区大司教)、吉田隆(神戸改革派神学校校長)、森島豊(青山学院大学准教授)。申し込みは特設サイト(https://bit.ly/3IDWjcW)より。

 青年の部「キリストさん 10年後、私たちは変わった?」2月5日(土)午前11時~午後5時、Zoom(無料)。講師=朝岡勝(東京基督教大学理事長)、ジェフリー・メンセンディーク(桜美林大学准教授)。

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