【空想神学読本】 限界に直面する世界の中で問う魂のあり方 『MY LITTLE PLANET』岩泉 舞 Ministry 2021年夏・第48号

 1992年に刊行された1冊の短編集で〝伝説〟となった漫画家・岩泉舞。瑞々しい感性で描かれたジュブナイルファンタジーの作品群は、時代を超越し今でも根強いファンが多い。唯一の短編集『七つの海』に新作漫画、未収録作を加えて復活した『MY LITTLE PLANET』の表題作から、30年ぶりに作者が提示した問いと向き合う。

 世界に「奇跡」はあるのでしょうか。私は奇跡を信じています。なぜなら飢えた人々に天からのパンが40年間与えられ、12年の長血の病は癒やされ、38年起き上がれなかった人は立ち上がり――30年置かれたままだった、二度と見れないはずだった天才のペンが再び走り始めるからです。

 岩泉舞は1990年代の前半に週刊少年ジャンプを中心に活躍しました。「ふろん」「たとえ火の中…」「七つの海」といったいくつもの鮮烈な読み切りによって熱烈なファンを獲得します。いよいよ連載かと期待が高まる中で、しかし彼女の作品はぷっつりと発表されなくなりました。伝説と、短編集『七つの海』だけが残され、長い月日が流れるのでした。

 私が岩泉舞を知ったのは「COM COP」という作品でした。以来、『七つの海』はいつも本棚の一番いいところに置かれ続けてきました。岩泉作品に詰まったセンス・オブ・ワンダーと行間の詩情、温かで誠実な問いかけは、少年時代の私に、どんなときでも確かな勇気をくれたのでした。きっとそれは「少年漫画」に一番必要な力なのです。読むたびに「ふろん」に煩悶し、「七つの海」でユージの成長にドキドキし、「COM COP」のコムの笑顔に涙がにじみました。そしてどれだけ願い続けていたでしょう。新作などと贅沢は言わない。せめて「夢見る佳人」がもう一度読みたい!と。

 この待ち焦がれた1000年が今や1日になったかのごとくに輝いています。しかも刊行されていなかった作品だけでなく、新作まで……。きっと数々の「奇跡」が関係者の方によってなされたのでしょう。感謝の他ないとはこのことです。そして、短編集の表題新作「MY LITTLE PLANET」は期待にたがわぬ作品となっています。

 魔法の力が技術として人々の生活を豊かに支える星での物語です。同時に世界は緩やかに限界を迎えつつありました。活力は失われ、新たに子どもが生まれなくなってしまったのです。最後に生まれたのは12年前に誕生した2人の子ども、マーニーとグレイス。2人は社会全体の宝として大切に育てられていたのでした。

 そんな2人にある〝宿題〟が与えられます。それは小さな星を模したゲームです。この星を「自分が住みたくなるように」育ててほしいというのです。星の中では小さな人類が原始的な生活を始めています。2人はそれぞれの星の「神」として、自由に力を振るうことができます。「裁き」を与えるのも、恵みを与えるのも自分次第。その中で星をどう発展させていくのか。

 気ままなマーニーはこの星の「不幸」を願い、穏やかで優しい心を持ったグレイスは「幸福」を願いました。マーニーの星はたちまち荒廃し、彼女も星への関心を簡単に失いました。対してグレイスは粘り強く星を育てていきました。このグレイスの星を見て妬ましく思ったマーニーは、隙を見てグレイスの星に「裁き」を与え、ボロボロに荒廃させてしまうのでした。星の変わりように涙を流すグレイス。それでも彼女はこう漏らします。「でも……、きっと立ち直ってくれる。この星には幸せになってほしいの。私はそれを望むわ」。そしてここから物語は大転換します……。

 「MY LITTLE PLANET」は人間と技術の関わりを描いています。マーニーとグレイスの世界は、魔法という技術によって豊かさを得、また荒廃を招いていました。魔法のような、神に見まごうばかりの技術力。当たり前のこととして豊かさを享受し、無意識になってしまっていますが、それは私たちの世界そのものです。この中で限界を迎えていることも含めて。

 限界に直面している世界の中で、教会ではこんなことが言われていないでしょうか。「教会には力がないから」「小さな群れだから」「仕方がないのだ」と。確かに日本の教会は小さく、社会の破局を覆すような力はないのかもしれません。困難や悪意にさらされることも、望まない結末を迎えることも確かにあります。ただそれでも、私たちは今日に向き合い、そこから立ち上がろうと願えるか。それは魔法=技術があるか否か、そして豊かか否かを超えたところで、そこに立つ私たち一人ひとりの魂のあり方の問題として問われていることです。

 マーニーとグレイスの物語は、人間にとって、どんな優れた技術よりも心のあり方こそが生きることにいかに本質的であるかを示しています。そして、真の奇跡とはそんなときに現れる。それこそ、他のどんなものでもなく、教会こそが真に関わり、支え、福音を届けなければならない場所なのではないでしょうか。

阿部頌栄(日本ナザレン教団仙台富沢キリスト教会牧師)

【作品情報】

 表題作である新作短編マンガ「MY LITTLE PLANET」(32P)で、約30年ぶりの〝復活〟を果たす。本書では、1992年に刊行された『岩泉舞短編集1 七つの海』収録「ふろん」「忘れっぽい鬼」「たとえ火の中…」「七つの海」「COM COP」「COM COP2」をコミックスではカットされた雑誌掲載時カラーを再現して収録。さらに単行本未収録作「KING-キング-」「クリスマスプレゼント」(原作:武論尊)に加え、描き下ろし新作「MY LITTLE PLANET」を収めた決定版。

■作者:岩泉舞
■掲載誌:週刊少年ジャンプ(1989~1994年)
■発行年:2021年
■出版社:小学館クリエイティブ

【Ministry】 特集「来たるべき『神学2.0』への挑戦」 48号(2021年夏)

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