【空想神学読本】 『ドラえもん』にみる〝すこしふしぎ〟な神義論 Ministry 2021年秋・第49号 

 単行本45巻、大長編24巻にわたる言わずと知れた藤子・F・不二雄の代表作。没後四半世紀を経てなお、人気は絶大である。奇妙奇天烈 摩訶不思議 奇想天外 四捨五入 出前迅速 落書無用と単に難しそうな言葉の羅列でさえ、メロディーが浮かび、大山のぶ代の声で脳内再生されるほど、幼少期から影響を受けた中高年も多いに違いない。

 私たちは「のび太」に共感しながらドラえもんを読む。藤子・F・不二雄は「のび太は自分がモデルだ」と随所で語っていたが、むしろごくありふれた、普通の少年と言ってもいい。勉強も運動も苦手で、いつもいじめられっ子の役割を担う、誰しもが持つ「ダメ人間」的要素をすべてあわせ持っている少年。そんなのび太ではあるが、結婚前夜のしずかちゃんの父は彼をこう評価する。

「あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね」(25巻)

 何をやってもうまくいかない中でも屈折することなく、他人への思いやりや共感を失わない姿に、誰もが彼を認めざるを得ない。単行本の中では、まともになろう、幸せになろうとして、ことごとく失敗してまずい方に言ってしまう姿が随所に見られるが、それでも諦めないで、まっとうな心を持ち続ける。そこに読者は励まされる。

 そんなのび太にある日突然、未来の世界のネコ型ロボットが現れた(1巻)。名前はドラえもん。青い狸のような見た目。お腹には四次元ポケットという不思議な道具が出てくるポケットがある。どんな願いでも叶えてくれる。将来ろくでもない人生を歩むであろうのび太を支え、彼の人生を幸せなものへと変えていく使命を持って現代にやってきた。おそらく設定だけなら未来の万能な科学がダメな少年を救うという構造に見えるだろう。しかし、すべてが思い通りにならないどころかのび太がたいへんな騒ぎを起こしてしまうというのが、典型的なストーリー展開となっている。

不良品ネコ型ロボット

 ドラえもんは不良品として特売品で売られていたという(11巻)。確かに不良品らしく、ドジで間が抜けた様子が多く見られる。道具使用者であるのび太の使い方にも問題があるが、のび太の特性を見ながら最適な道具を出しているとは言えない。それは、優秀であるとされている妹ロボットドラミちゃんと役割を交代したときの行動からも想像できる(24巻)。朝起きるときも、授業中に居眠りしているときも、苦手な体育の授業のときも、嫌いな宿題をするときも、のび太本人のやる気を促すような道具を出し、彼のダメな部分を矯正しようとする。その姿は、お見事と言いたくもなる。しかし、それでものび太はドラえもんがいいと言うのだ。なんだかんだ言って2人は仲良しだというのがストーリーの結論である。不良品ロボットと劣等生の少年が一緒になることに、どんな意味があるのだろうか。

藤子・F・不二雄の神観

 そこで、藤子・F・不二雄の神観について紹介したい。ドラえもんの中には旧約聖書のエピソードを題材にした話がいくつもある。「神さまセット」(39巻)、「神さまロボット」(28巻)という「神さま」が出てくる話。「地球セット」(5巻)、「創世セット」(大長編『のび太の創世日記』)という天地創造をモチーフにした話。大長編『のび太と鉄人兵団』では、アムとイムというアダムとイブのエピソードを絡めた話。「モーゼステッキ」(31巻)や「十戒石版」(39巻)といった出エジプト記の物語をモチーフにした話。挙げていくときりがない。藤子・F ・不二雄のSF短編集の中にも「神さまごっこ」や「創世日記」など、天地創造物語を絡めた作品がいくつもある。創世記について独自の解釈を持っていると考えられる。

 それは「完璧ではない神」観である。のび太をはじめとするさまざまなキャラクターがこの世界を創造する話があるが、普通の人間である主人公が世界を作り、自分のミスや、身勝手な理由から、完璧ではない世界ができ上がる。その結果、自分自身にもしっぺ返しがきて、存在が消えそうになったりもする。「神が全知全能であるならば、なぜ悪がはびこるのか?」という古来からの問いかけに対する応答として、完璧ではない欠けの多い神という存在を作り出しているのだ。実際、大長編『のび太のワンニャン時空伝』でのび太が神格化されている姿を見ると苦笑してしまう。

 そんなのび太から見たドラえもんの存在も「完璧ではない神」という図式で証明される。願いごとを叶えてくれる存在かと言えばそうではなく、頼れる存在かと思えばミスばかり。大長編では四次元ポケットをなくしたり、故障したりもする。未来の万能科学を持って現代にやってきたとしても、決して完璧な存在なんかではないのだ。神のような存在のようで、近しい友だちのような存在として、ドラえもんは常にのび太に寄り添っている。だから読者はそういう姿に憧れを持つ。

 いわば、強さや便利さを全面に出して人を支配するのではなく、人の弱さと同じものを神は持っている。その神によって生かされている。藤子・F・不二雄のSF(すこしふしぎ)な物語は、私たちに神の概念について一つの示唆を与えてくれているのだ。

本竜 晋(日本基督教団三重教会牧師)

【作品情報】

 勉強もスポーツも苦手でのんびり屋な小学生、のび太のもとに、22世紀からネコ型ロボット「ドラえもん」がやってきた。ドラえもんは、おなかの四次元ポケットからさまざまな「ひみつ道具」を出して、のび太を助けてくれる。ドラえもんのおっちょこちょいな性格のせいで、奇想天外な結末になることも!?

■作者:藤子・F・不二雄
■発行年:1969年~1996年
■掲載誌:コロコロコミックほか
■巻数:全45巻/大長編全24巻
■発行部数:1億部超
■出版社:小学館

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