WCC ロシア正教会の除名要請をめぐる重大局面 2022年4月16日

 世界教会協議会(WCC)総幹事代行のイオアン・サウカ氏(ルーマニア正教会司祭)が反発しているにもかかわらず、教会指導者たちの間では、WCCがロシア正教会との関係を断ち切ることを提案する声が高まっている。「レリジョン・ニュース・サービス」が報じた。

 全世界でおよそ5億8千万人のキリスト教徒を代表する352の加盟教団を擁するWCCは、ロシア正教会を加盟教団から追放するよう圧力を受けている。同教会の指導者であるキリル総主教は、ロシアのウクライナ侵攻を支持し、プーチン大統領の政治工作に同教会を巻き込むことによって加盟を無効化したと、反対派が主張しているからだ。

 この議論に対して4月11日、WCCの総幹事代行であるイオアン・サウカ氏が反論した。ルーマニア正教会司祭としてウクライナの難民を訪問し、ウクライナ侵攻に対するキリル総主教の対応を公に批判してきたサウカ氏は、ロシア正教会を追放するという提案に反発し、そうすることはエキュメニカル対話を強化するというWCCの歴史的使命から逸脱することになると論じた。

 「排除し、破門し、悪魔化することは簡単だ。しかし、私たちはWCCとして、出会いと対話の自由で安全なプラットフォームを使い、たとえ意見が異なる時でも、互いに会って話を聞くよう求められている」と、サウカ氏はWCCの声明で述べている。「これは常にWCCがとってきたスタンスであり、私の時代にこの召命が失われ、WCCの性質が変節するならば、大いに苦しむことになるだろう」

 しかし、第二次世界大戦後の1948年に設立された世界的なキリスト教エキュメニカル団体であるWCCが、6月に中央委員会の主要会議を控えているため、サウカ氏はますます逆風にさらされる可能性がある。ロシア軍が民間人に対する戦争犯罪を犯したと非難されるウクライナでの戦争が激化し続ける中、キリスト者の間では、WCCが加担していると見られるロシア正教会と関係を断つべきかどうかを問う声が高まっている。

 3月下旬、チェコの神学者、牧師、エキュメニカル指導者であるパベル・セルニー氏は、ロシア正教会は長い間、自分たちの目的のためにWCCを利用しようとしてきたとする持論を発表。ウクライナ侵攻に対するキリル総主教の支持を受け、セルニー氏は「ロシア正教会は、宗教的ナショナリズムという誤った道から立ち戻るまで、WCC加盟教団として存続することを許されるべきではない」と述べている。

 その2日後、「福音派」キリスト教徒でワシントンDCのディートリッヒ・ボンヘッファー研究所所長のロブ・シェンク牧師は、WCCにキリル総主教の制裁を求め、彼を「プーチン大統領の宣伝道具」と称する論説を「レリジョン・ニュース・サービス」で発表している。「WCCからキリル総主教を追放しようとする運動の支持者は、ウクライナを併合しようとするプーチン大統領の軍事作戦を事実上支持し、平和的な国家に対する集団的暴力に反対しないことで、彼が体現する教会的存在を失格にしたと考えている」と、シェンク氏は書いている。「プーチン大統領の血なまぐさい、ほとんどがキリスト者同士の争いは、WCCのミッションステートメントを破壊するだけでなく、イエスの天の父に対する大祭司の祈り、『私たちのように、彼らも一つとなるためです』(ヨハネによる福音書17章11節)にも著しく反し、拒絶するもの」

 シェンク氏の言葉はその直後、元カンタベリー大主教で、英国国教会のトップだったローワン・ウィリアムズ氏が、ロシアの教会をWCCから排除する「強い声」があるとBBCに語ったことに重なる。「ある教会が侵略戦争を積極的に支持し、戦時中のいかなる倫理的行動においても明白な違反行為を非難しない場合、他の教会はその教会に問題を提起し、挑戦し、『このことについて……キリスト教と認められる何かを言うことができない限り、あなた方のメンバーシップをもう一度見直さなければならない』と言う権利を持っている」とウィリアムズ氏。

 そのような議論は、プーチン大統領の政治的野心を補完し、ロシアのウクライナ侵攻を正当化する精神的土台を築いたキリル総主教に向 けられた、より広い批判の波の一部である。ウクライナ侵攻が始まってからの彼のレトリック――例えば、ウクライナにおけるロシアの敵 を「悪の力」と呼び、この戦争が西洋や「ゲイパレード」に対するより大きな「形而上学的」戦いの一部であるとする示唆――は、サウカ氏自身を含む世界中の宗教指導者の怒りを呼び起こした。

 「私は世界教会協議会の総幹事代行として、また正教会の一司祭として、聖下にこの手紙を書いています」。サウカ氏は3月にキリル総主教に宛てた公開書簡でそう書いた。「そのほとんどが私たちの正教会の信仰深い信徒たちでもある、苦しんでいる兄弟姉妹たちのために、あなたの声を上げてください」

キリル総主教、WCCの書簡に返答 「露骨なロシア嫌悪」「政治的偏見や一方的な見方」と反論 2022年3月14日

 キリル総主教は数日後、サウカ氏に反論。その指摘に動じないばかりか、戦争の責任はロシアではなく「西側諸国とロシアの関係にある」と主張した。このやり取りは、数十年前から続くロシア正教会とWCCとの、時に険悪な関係をなぞったものであった。事実、ロシア正教会は1997年、WCCを脱退すると脅したことがある。当時のロシア正教会代表は、WCCがあまりにもリベラルな方向に進んでいると非難し、「女性司祭の受け入れ」や「同性愛者に対する態度」などを非難したのである。

 アリゾナ州立大学「Recovering Truth」の博士研究員で「『ポスト真実』の時代における宗教、ジャーナリズム、民主主義」プロジェクトに参加するロシア正教会の専門家、サラ・リカルディ・スワルツ氏は、「WCCのエキュメニカル、平等主義、そしてしばしば進歩的な政治は、ロシア正教会の激しい社会政治や道徳的世界観と対立してきた」と指摘する。

 それでも、より広範な正教会共同体内の最近の分裂、特にキリル総主教と東方正教会のコンスタンティノープル総主教バルトロメオ1世の間の緊張関係は、WCCを脱退する危険性を高めている。かつてロシア正教会だった多くのウクライナ正教会は2018年に独立を宣言し、侵攻以来、分断が深まっている。ウクライナのロシア正教会の中には、礼拝でキリル総主教を記念することをやめたり、離脱を検討したりする教会もあり、アムステルダムの少なくとも一つのロシア正教会は、伝統から離れる手続きを始めている。

 リカルディ・スワルツ氏は「レリジョン・ニュース・サービス」に対し、「ロシア正教会を離れるか留まるかという問題は、一部、正教会内の交わりという大きな問題と関係している」と述べた。「WCCを脱退することは、ロシア正教会の神学的メカニズムが強化され、より大きな正教世界との分裂の可能性を示唆するものとなり得る」

 神学教授でフォーダム大学正教会研究センター所長のジョージ・E・デマコプロス氏も同意見だ。「ロシア正教会が、西洋のものはすべて悪であるという絶え間なく修辞的な抗議をしていたにもかかわらず、WCCに留まりたいというのは、他の正教会がWCCで活動しているため、取り残されたくないから」だと、デモコプロス氏は見る。「ロシア正教会は、ローマ・カトリック教会や英国国教会、あるいは他の誰であれ、正教会の代弁者になることを望まず、自身が正教の代弁者であり続けることを望んでいる」

 WCCは3月末、ウクライナをテーマとした特別円卓会議を開催。ウクライナとロシアの代表者は出席できなかったが、集まったグループは「ロシア連邦の指導者が主権国家ウクライナの人々に対して行った軍事的侵略」を非難し、ウクライナ人が「この侵略から自らを守る」権利を確認する声明を発表した。「私たちは、この武力侵攻とその恐ろしい結果が、私たちの最も基本的なキリスト教信仰の原理原則の観点から正当化され、許容される正当な理由はないという強い確信を共有している」

 一方、キリル総主教は、教皇フランシスコからキリル総主教の所属するロシア正教会の司祭に至るまで、幅広いキリスト教指導者から激しい反発を受け続けている。

 WCCの広報担当者は「レリジョン・ニュース・サービス」に対し、6月15日から18日までジュネーブで開かれる中央委員会のみが加盟教団を除名することができると述べた。資格停止の根拠はWCC憲章に記載されている。「中央委員会は、以下の事由により教団の会員資格を停止することができる。①教団の要請があった場合、②その教団によってメンバーシップの基礎または神学的基準が維持されていない場合、③その教団がメンバーシップの責任を執拗に怠った場合」

 最近の発言でサウカ氏はWCCからの除名処分は稀であると指摘。過去には、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)を支持するオランダ改革派教会を除名するかどうか、指導者たちが議論したことがあり、最終的にはオランダ改革派教会が自らWCCとの関係を断ち、後に再加盟したという。

 また、1991年のWCC総会では、第一次湾岸戦争について激しい議論が交わされ、英国国教会や米国教会の代表団を批判する声が多く聞かれたことにも触れた。「WCCは過激な解決策を選んだわけでも、これらの教団を排除することを決めたわけでもない」とサウカ氏。近年WCCから加盟資格をはく奪された唯一の教会は、コンゴ民主共和国を拠点とする伝統主義のキンバンギスト教会で、神の性質に関するキリスト教の概念、三位一体の解釈に関する意見の相違によるものであった。

(翻訳協力=中山信之)

Photo: Ivars Kupcis/WCC

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