【空想神学読本】 『イカゲーム』で生まれ変わる Ministry 2022年冬・第50号 

デスゲームの系譜

 ネットフリックス史上最大のヒット作となった韓国ドラマ『イカゲーム』の盛り上がりに、2000年の映画『バトル・ロワイアル』公開時の騒動を思い出した。拉致された中学3年生たちが最後の1人になるまで殺し合う、デスゲームの問題作だ。R15にレイティングされ、公開中止を求める声まで上がったが、(だからこそかもしれないが)異例のヒットとなった。当時も今も、追い詰められた人々が互いに殺し合うデスゲームの不穏さに、人々は惹きつけられるのかもしれない。

 ローマ帝政期のコロッセオを舞台にした2000年の映画『グラディエーター』も大ヒットしたデスゲームだ。剣闘士たちの死闘に熱狂する五万の観衆は、『イカゲーム』に熱中する現代の私たちの姿そのものではなかったか。

 貴志祐介の1999年の長編小説『クリムゾンの迷宮』は『イカゲーム』の設定に近い。すべてを失って追い詰められた主人公が応募した高額アルバイトは、「大金か死か」のデスゲーム。初めは協力し合っていた参加者たちが、最後は壮絶な殺し合いを展開する。

 その後登場したのがスーザン・コリンズ原作の『ハンガー・ゲーム』シリーズ。2012年から2015年にかけて4本が映画化され、いずれもヒットした。12の地区から男女1人ずつが選出され、計24人で最後の1人になるまで殺し合う。その犠牲者らは国家の安定のための生贄だ。終盤、革命を成功させたレジスタンスのリーダーが、旧体制側の子どもたちを使ってハンガー・ゲームの開催を提案するのが皮肉だ。権力者が変わっても、いつも子どもたちが真っ先に犠牲になる。『バトル・ロワイアル』と共通するメッセージだろう。

観客かプレイヤーか

 そうしたデスゲーム作品群の流れを汲む『イカゲーム』の特筆すべき点は、韓国の社会問題を巧みに取り入れたところだ。経済格差、不当解雇、脱北者差別、外国人労働者差別、親による子の虐待などなど。特に主人公ギフンが「10年前に参加した」というストライキは、2009年の双龍(サンヨン)自動車の大規模リストラに起因する実際のストライキ(警察によって強制排除され、死者まで出た)を指しており、彼のその後の転落が、単なる自己責任や堕落でなかったこと示唆している。

 そういった参加者らの悲哀が、ゲームの進行とともに徐々に明かされていく。

 どのキャラクターにも感情移入できない第1話は、「大金に目がくらんだ落伍者たちがデスゲームに挑む話」に見える。が、実は「周縁部に追いやられた人たちが、デスゲームを強いられて死ぬまでもてあそばれる話」なのだとわかってくる。なんとしても生き残ってほしい、と願わずにいられない。

 そう考えると、そこまで露骨でない『イカゲーム』のような奪い合い、騙し合い、蹴落とし合いが、私たちの日常にもあふれていると気づかされる。実は私たちは『イカゲーム』を見て盛り上がる観客であると同時に、生まれながらにマイルドな『イカゲーム』をさせられているプレイヤーなのではないだろうか。

生まれ変わるきっかけ

 『イカゲーム』はキリスト教のモチーフを意識的に取り入れている。最終ゲーム前夜の「最後の晩餐」、ギフンの手のひらを貫くナイフ、1年後のギフンの(聖画でよく見る)イエス・キリストのような風貌、死者を焼く地下室の炎など。

 またゲーム参加者の1人、キム・シヒュンはプロテスタントの牧師だ。キム牧師がどのような経緯でゲームに参加したかは語られない。が、他の参加者同様、後ろ暗い過去があるのは間違いない。彼はよく祈り、ゲームをクリアしたら神に感謝をささげる。神の恵みのおかげで助かった、と。しかし彼が助かったのは、他の参加者を(彼自身が)蹴落として殺したからに他ならない。それを指摘されると「みんな罪人なのだ」と開き直る。自分の言動や行動の矛盾は完全に無視する。

 そんなキム牧師と対をなすのがジヨンという女性だ。彼女は登場時から一貫して厭世的で、他者に無関心で、ゲームに勝つ意欲もない。しかしキム牧師に対してだけは、なぜか一貫して厳しい。自分の父親ほどの年齢の牧師を容赦なく糾弾する。

 実はジヨンは牧師の娘であり、自分に性的虐待を繰り返した父親を殺した過去がある。聖職者の欺瞞に我慢がならないのだ。そのため周囲がデスゲームに勤しむ間も、2人はキリスト教を軸に対立する。

 この2人はゲームを通して、くるりと立場を入れ替える。キリストに倣う者だったキム牧師は、生き延びるために他者を容赦なく殺す殺人者となる。一方のジヨンは父親殺しの殺人者だったが、第四ゲームで自らセビョクの身代わりとなり、図らずもキリストに倣う者となる。

 キリスト教の洗礼には「キリストと共に死に、キリストとともに復活する(生まれ変わる)」という意味がある。2人はデスゲームの洗礼で死に直面したことで、それぞれ「生まれ変わった」のかもしれない。

 他の参加者らも同様の「生まれ変わり」を経験する。他人を信用できなかったセビョクは終盤、弟の世話を頼むほどギフンに信頼を寄せる。最大の助言者だった幼なじみのサンウは最終ゲームで最大の敵となる。優しさだけでは生きていけないと失望していたギフンは、もう一度他者のために生きようとする。

 『イカゲーム』とキリスト教は、共に生まれ変わる機会を提供する。

(河島文成)

【作品情報】

 勝てば天国、負ければ……即死。賞金に目がくらみ、奇妙なゲームへの招待を受けた参加者たちを待っていたのは、昔ながらの遊びを取り入れた死のゲームだった。

 世界90カ国で1位を記録した、Netflixで配信中の韓国ドラマ。2021年のユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた。

■原作・脚本・監督・演出:ファン・ドンヒョク
■出演:イ・ジョンジェ、パク・ヘス、ウィ・ハジュンほか
■全9話
■配信国・地域:日本含む190カ国
■配信期間:2021年9月17日~

【Ministry】 特集「コロナ後のセカイ、教会のミライ」 50号(2022年冬)

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