【夕暮れに、なお光あり】 希望の木 川﨑正明 2022年7月21日

 6月23日付「朝日新聞」の「私の視点」という投稿欄で、薬剤師の山田久美子さんという方の「患者の生きる意味『医療貢献の手ごたえが力に』」という記事を読んだ。この方は、10年前に治癒がない血液のがんである形質細胞性白血病を宣告された。直ちに厳しい治療を受け、約9年生き延びた。しかし再発、検査の結果、転移性脳腫瘍であることが判明、激しい副作用に悩まされながら、何とか生き延びているという。そんな痛みと苦悩の中で「今を生きる意味」を考え続け、「患者は生き続けながら診察や治療を受け、自身の生化学的データや日頃の症状を医療者に提供し、相談しながら治療を選ぶことで、将来のよりよい医療を共につくっていく作業に参加し、また、将来生まれる患者の役に立っている」という思いにたどりついた。それが「生の圧倒的な力になる」という。

 好善社で活動を共にするNさん(82歳)は、29歳の時に治療法が分からない「進行性筋萎縮症」になり、人生が激変した。しかし彼はハンセン病の元患者から「あなたのことを覚えて祈っています」と励まされ、生きる勇気をもらった。そして「自分には不自由さがあり、できないことがあっても、自分の価値は一つも変わらないし、生きる価値も変わらない」という自尊感情を持って生きており、そこに「いのちの尊厳」を感じているという。今も介助者なしに生活できない重度の不自由者だが、その生きる姿勢は極めて積極的である。

dewdrop157によるPixabayからの画像

 ルカによる福音書13章に「実のならないいちじくの木」というイエスのたとえ話がある。3年間実を結ばないいちじくの木について、その園の管理者が園丁にこんな文句を言う。①この木は期待外れで役に立たない。②これでは土地無駄になる。③3年待ったが、もう待てない。④こんな木は切り倒せ。しかし園丁は、「ご主人様、今年もこのままにしておいてください。木の周りを掘って、肥やしをやってみます。もし来年実を結べばよし、それで駄目なら、切り倒してください」(8~9節)と言った。実を結ばないならもう用がないという価値判断が私たちの社会にある。しかしイエスの教えは、今、実を結ばないからと言って断罪しない。3年待った木、それは切り捨てる木ではなく、来年こそ実を結ぶかもしれない「希望の木」なのである。

 治癒がない病気になっても、未来の患者や医療者に貢献していることに生きる意味を見出した山田さん、進行性筋萎縮症と向き合う人生に生きる尊厳を感じているNさんの生き方に、「希望の木」としての価値ある人生を教えられた。

 かわさき・まさあき 1937年兵庫県生まれ。関西学院大学神学部卒業、同大学院修士課程修了。日本基督教団芦屋山手教会、姫路五軒邸教会牧師、西脇みぎわ教会牧師代務者、関西学院中学部宗教主事、聖和大学非常勤講師、学校法人武庫川幼稚園園長、芦屋市人権教育推進協議会役員を歴任。現在、公益社団法人「好善社」理事、「塔和子の会」代表、国立ハンセン病療養所内の単立秋津教会協力牧師。編著書に『旧約聖書を読もう』『いい人生、いい出会い』『ステッキな人生』(日本キリスト教団出版局)、『かかわらなければ路傍の人~塔和子の詩の世界』『人生の並木道~ハンセン病療養所の手紙』、塔和子詩選集『希望よあなたに』(編集工房ノア)など。

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