各州が中絶を禁止する中、性教育をめぐる攻防に新たな焦点 2022年8月22日

 ノースカロライナ州の青年牧師は、中学生のいる部屋の前で、ホワイトボードの下部に「手をつなぐ」「キスする」と走り書きしている。そして、ボードの上部に「性交」と書き込む。その隙間に太い線を引き、結婚前の性交が――実際にはキス以上のものが、文字通り純潔の一線を越えていることを示す。「レリジョン・ニュース・サービス」の報道から紹介する。

 これは、現在オースティン会衆派教会の代務教師であるアメリア・フルブライト氏が、牧師主導の性教育コースに参加した子ども時代を思い起こさせる光景である。

 公立学校での性教育はあまり良くなかったと、フルブライト氏は振り返る。彼女は、後期の性感染症の生々しい写真を覚えているが、避妊について言及された記憶はない。このような二重の初期性教育は彼女を辱め、大人への健全な発育を止めたとフルブライト氏は言う。

 「もし妊娠したら、その結果は自分の将来だけでなく、自分が育った地域社会でどんな汚名を着せられるか、という強い恐怖があった」

 6月に米最高裁が憲法で定められた中絶の権利を覆した。その後26の州が中絶を禁止するか、禁止する可能性がある。そのうち半数の州では学校で性教育を教えることを義務づけておらず、フルブライト氏の地元であるテキサス州もその一つである。26州のうち、カリキュラムで避妊の話題を取り上げることを義務づけているのは4州だけ。これら「バイブルベルト」の州の多くでは、性教育は「性交しないこと」が中心である。

 中絶が禁止されるにつれて、10代の妊娠に再び焦点が当てられるようになり、それに伴い若者に性についてどう教えるのがベストかという数十年来の論争に新たな視点が設けられることになりそうだ――ただ禁欲的なアプローチか、いわゆる「包括的性教育」と呼ばれるものを教えるか。

 フルブライト氏といえば、「包括的性教育」の提唱者である。包括的性教育とは、性自認、さまざまな性的指向、避妊具など、性の身体的、生物的、感情的、社会的側面に関するさまざまな問題を扱うものである。「中絶や包括的性教育に対して、聖書的な根拠を示すことは不可能だと思う」と、フルブライト氏。「身体の自律性、個人の良心、尊厳は、私のキリスト教信仰の大きな部分を占めている」

 彼女が禁欲的な性教育を宗教に結びつけるのには理由がある。多くの州が包括的な性教育に反対しているのは、少なくとも部分的には性教育に「禁欲こそ最善」というアプローチを提唱する一部の宗教的ロビイストの成果のためであり、学生は婚前交渉を避け、避妊、同意、性感染症の予防に関する教育を見送るようになった。このように多くのキリスト教団体が草の根的に性道徳を重視した結果、禁欲教育は中絶反対運動と密接な関係を持つようになったのである。

 そして、モラル・マジョリティのHIV/AIDS危機への反応に後押しされて、1981年、当時のロナルド・レーガン大統領は、思春期家族生活法を通じて、禁欲だけの性教育プログラムに何十万ドルもの助成金を投与した。レーガン大統領は、中絶反対派のキリスト教徒である自分の外科部長C・エヴェレット・クープ氏が禁欲教育の有効性に反対し、学校で包括的な性教育を教えるよう求めたことに対抗して、このような措置をとった。

 その後、禁欲主義的な性教育プログラムは政府の支援を受け続け、1982年から2017年の間に、議会は禁欲教育に20億ドル以上を費やした。2000年から2009年だけでも、信仰に基づく禁欲性教育プログラムは、タイトルVプログラム、思春期家族生活法、地域密着型禁欲教育プログラムを通じて、毎年約2億ドルを受け取っている。

 擁護者たちは、禁欲を強調する教育は包括的性教育よりも、性交の感情的・人間関係的なリスクをうまく認めていると主張している。テキサス州北部郊外のアーヴィングにあるビーコン・ヘルス・エデュケーション・リソース社のCEO、ロリ・カイケンダル氏は、禁欲に焦点を当てた教育は、「最適健康」または「リスク回避」カリキュラムと呼ばれることもあり、生徒にポジティブで全体的な効果をもたらすと信じていると話す。

 「中絶は、他のいくつかの決断がなされた後の決断だ」と、カイケンダル氏は言う。彼は1990年代初めにテキサスA&M大学でキャリアをスタートし、「禁欲教育という新しい分野」のうちで学生寮のための指導プログラムを行っていた。カイケンダル氏は、宗教的な理由と健康上の理由から、個人的な約束として結婚まで性交しないことを選択したという。

 禁欲教育は、意図しない妊娠に直面するよりもずっと先の選択を若い人たちにさせるものだと彼女は主張する。「私たちは、若者がそのような状態にならないよう、より進んだアプローチで先頭にいる」

 フィラデルフィアのキリスト教性科学者でソーシャルワーカーのブリッタニー・ブロアダス=スミス氏は、「禁欲教育で性行為はまったく減らない。むしろ性行為のリスクを高めるだけだ」という。禁欲教育を受けた未成年者は、しばしば性交を恥と考え、避妊具をもらうのを避けるようになると指摘している。

 非包括的な性教育と中絶禁止令が交差することで、安全でない中絶が増加するとブロアダス=スミス氏は言う。この交差点にいる有色人種の学生は、既存の医療の社会的決定要因に基づき、不当に傷つくことになるだろうと彼女は言う。

 「権力者である白人の福音主義者たちは、教育制度や公的福祉制度、法律に自分たちの信念を吹き込んでいる」とブロアダス=スミス氏。「しかし、イエスは第一の社会的擁護者であっただろう」

 フルブライト氏は、2013年から性と生殖に関する正義を提唱している。それ以前は、Texas Campaign to Prevent Teen Pregnancy(10代の妊娠を防ぐためのテキサスキャンペーン)に携わっていた。この二つの仕事の関連性は、フルブライト氏にとって明らかであり、それを裏付ける調査結果があると彼女は指摘する。

 30年にわたる研究によると、包括的な性教育は性病の発生率や10代の意図しない妊娠の割合の低下と相関している。また、包括的な性教育は生徒の性行為の開始を遅らせ、性的暴力を減少させることが証明されている。

 2011年にPublic Library of Scienceが行った調査によると、禁欲教育を重視している州は10代の妊娠率が最も高いそうだ。また、10代の妊娠率が最も高い10州のうち、9州はロー法以後の中絶を事実上禁止することになる。

 もし議員たちが本当に中絶率を下げることを心配しているならば、包括的な性教育を制定するだろう、とフルブライト氏は言う。「これは赤ちゃんや子どもを守ることに関しての制定ではない」「権力のための制定だ」

(翻訳協力=中山信之)

congerdesignによるPixabayからの画像

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