関東大震災から100年 虐殺の真相究明求めNCCが声明 2023年4月21日

 関東大震災から今年で100年を迎えるにあたり、日本キリスト教協議会(NCC、金性済総幹事)は4月13日、「関東大震災朝鮮人・中国人虐殺の真相究明と、国家責任に対する表明を求めます」と題する声明を岸田文雄首相に宛てて発出した。

 声明では、この100年が「関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺の歴史事実を隠蔽し、その国家責任を不問にしてきた100年」であると述べ、「国の負の歴史を隠すことが国家の威信を保全する賢明な道であると理解するような考え方とは、この世界においてこの国の人々の誇りを高めるどころか、反対に深い不信感と疑念がこれから先もさらに世界の市民から向けられていくことが予想される」と主張。このような歴史隠蔽と差別の温存が現代のヘイトスピーチやヘイトクライムの温床になっているとして、真相究明と国家責任の認識を求めた。

 声明の全文は以下の通り。


内閣総理大臣
岸田文雄様

関東大震災朝鮮人・中国人虐殺の真相究明と、国家責任に対する表明を求めます

 関東大震災100周年を迎える今年2023年は、関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺の歴史事実を隠蔽し、その国家責任を不問にしてきた100年であることを、わたしたちに問いかけています。

 当時、戒厳令法には「第1条戒厳令は戦時若くは事変に際し兵備を以て全国若くは一地方を警戒するの法とす。」とあるにもかかわらず、水野錬太郎内務大臣は赤池濃警視総監らと大震災が起こった9月1日の午後に協議し、自然災害という事態に対して戒厳令の発布を推し進めて行きました。戒厳令法第1条とは、殲滅・討伐すべき敵がいるという認識を前提にしています。水野内相たちはその時誰を、どんな根拠で打ち倒すべき敵と考えたのでしょうか。彼らは、事実無根の「朝鮮人暴動」という流言蜚語を、事実確認もしないまま、事実と認定することを意図的に選択したのです。その結果、9月1日午後にも「朝鮮人暴動」のデマによって始まっていた、横浜、東京に居住する朝鮮人に対する暴行は、戒厳令発布に基づく軍隊・官憲による朝鮮人虐殺を引き起こし、その事態は火に油が注がれたような「天下晴れての人殺し」という止めがたい大虐殺の現実を関東地方全域に生み出してしまうことになったのです。2008年3月に内閣府に属する中央防災会議の報告書は、「不逞鮮人暴動」の流言蜚語の流布と共に軍隊と官憲による虐殺の事実を、当時の軍部や官憲の記録資料に基づき余すところなく実証しているといえます。それにもかかわらず、この歴然とした虐殺の歴史に対する国家責任について国会審議に提出された、これまで8回に及ぶ質問主意書に対して、政府は「政府にその事実関係を確認することのできる記録が見当たらない」と答弁を繰り返してきました。

 他の欧米諸国の歴史においてもジェノサイドの暗い歴史を抱える事例が数多くあります。しかし、それらの事例を抱える欧米諸国においてほとんどが最高責任者によって謝罪され、そしてその国家責任が認定されています。

 果たして現代世界の民主国家と呼ばれる先進諸国において、日本のようにこの歴然とした関東大震災虐殺の歴史を隠蔽し、その国家責任を100年間不問に伏し続けるような国があるのでしょうか。そのように国の負の歴史を隠すことが国家の威信を保全する賢明な道であると理解するような考え方とは、この世界においてこの国の人々の誇りを高めるどころか、反対に深い不信感と疑念がこれから先もさらに世界の市民から向けられていくことが予想されるのではないでしょうか。

 昨年、当時の虐殺を免れ生き延びながらもその後、精神を患い、病院に入院した二人の朝鮮人の診断記録に基づいて制作された“In-ates”という映像作品(飯山由貴/FUNI作)の東京人権プラザでの上映が東京都人権部によって検閲され止められてしまいました。その上映差し止めの理由のひとつには「在日コリアンの生きづらさが強調されることに対して参加者が嫌悪感をもつおそれがある」と愕然とすることが記されてあります。この一言には、虐殺の記憶と差別の現実に苦しむ在日コリアンに対する無理解と差別観、そして虐殺の歴史を想起させ
られることに対する恐れを読み取ることができます。歴史隠蔽と責任の不問という姿勢は、100年の歳月をこえて人間の価値観と考え方が根深い朝鮮人差別と歴史直視の恐怖によって縛り付けられたままにしてしまうことを、わたしたちはここから知ることができます。これこそがまさにこの国と社会の深刻な不幸であり不名誉であるといえます。

 このような歴史隠蔽と差別の温存が現代日本社会に止むことのないヘイトスピーチ/ヘイトクライムの温床になっていることに気づいてください。

 日本政府がこのことに気づき、関東大震災虐殺の歴史の真相究明に誠実に取り組み、その国家責任を良心と理性に従いしっかりと認識していく決断ができるように、岸田文雄首相が率先して努力くださいますように、心から要望する次第であります。

2023年4月13日

日本キリスト教協議会 総幹事 金性済

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