10代の精神衛生上の危機が、いかに牧師を最初の「応唱者」に変えさせたのか 2023年4月26日

 テキサス州の若手牧師であるブレイデン・ビショップ氏は、弱冠25歳。しかし、危機に瀕した10代の若者と仕事をする上で、彼は熟練したベテランだ。彼が関わる若者や中学生の中には、自殺についてよく話す者もいる。あまりに行き過ぎると、強制的な報告義務が生じる可能性があることを意識して、拒否権を差しはさむほどだ。「レリジョン・ニュース・サービス」の記事を紹介する。

 「彼らは、精神的な苦痛について話している最中に、『私は自分にも他人にも危害は加えない』と平然と言う。さらに、それを笑い話にして先に進むのだ」

 ダラスの北に位置するオーブリー。上流階級のコミュニティにあるグレース・チャペル合同メソジスト教会には、自殺を考えたり未遂したりしたことがあると、公然と話す若者たちがいる。中には、うつ病やリストカットなどの自傷行為に悩む者もいる。若い女性たちは、性暴力の被害を打ち明ける。高校3年生もいるが、中学生も心の健康との葛藤を語る。

 ビショップ氏は、アメリカの若者の多くが直面している精神衛生上の危機は、牧師の家のドアを叩いたり、仲間同士のスモールグループの会話など、何気ない形で現れることがあると話す。

 教会や家庭に教育や宣教のリソースを提供するオレンジ社のブレット・タリ―氏は、「おそらく今、精神衛生上の危機について話すことへの抵抗がなくなり、若い世代の意識が高まっているのだろう。メンタルヘルスやそれが信仰とどう関わるかについて、もっと積極的に話すよう教会を後押ししているのは若者である」と彼は言う。

 宗教社会学者のケビン・シンガー氏は、「アメリカの若者のメンタルヘルス問題は、疫病レベルに達している」と述べる。彼は、スプリングタイド・リサーチ学会(Springtide Research Institute)が昨年秋に発表した、Z世代(1990年代中盤から2010年代前半に生まれた世代)のメンタルヘルスに関する報告書を引用し、若者の過半数が、中程度から重度のうつ病、不安、孤独であると報告していることを明らかにした。

 スプリングタイド・リサーチ学会の世論調査に回答した人々の多くは、自分の苦悩を大人に報告することをためらっていると答え、60%以上が、心の健康問題について相談できるほど身近な大人を信頼していないと回答している。しかし、信仰に基づいた環境で若者と接する聖職者やその他の人々は、彼らがより多く直面する課題は、相談に来た子どもたちに対して答えを持っていないことだと述べている。

 イースタン大学のユース・ミニストリー部門を最近退職したダレル・ピアソン氏は、過去20年間の学生から、危機介入に関する授業があれば良かった、と日常的に言われていると話す。「多くの人はパンデミックが重要な出来事だと考えているようだ。しかし、それは現に事態をより悪化させたにすぎない」

 同時にシンガー氏は、スピリチュアリティがより強固なメンタルヘルスに寄与するとデータで証明されたと述べる。「一つ言えることは、メンダルヘルスの増進と、若者が宗教的あるいは霊的な存在であると認識する度合いとの間には、非常にポジティブな関係があるということだ」(ただし、シンガー氏が指摘したように、彼らは霊性の定義を古い世代とはまったく異質なものにしているかもしれない)

 「最終的には帰属意識こそが、メンタルヘルスを向上させる真の鍵」と彼は述べる。スプリングタイド・リサーチ学会は、若者は注目され、名前を呼ばれ、知られることを望んでいることをつきとめた。

 数年前、オレンジ社はユースリーダー向けに、神が感情を持つものとして人間を創られたことを認識させる方法と、感情を安全に処理する方法についてのプレゼンテーションを作成した。しかしタリー氏は、ユースリーダーたちは自分たちが唯一の供給資源となるための背景やスキル、または訓練術を持っていないことも知っている、と付け加えた。

 インタビューでは、若手牧師や顧問が、自分たちの責務のために創出しようとする環境を表現するのに、「空間」や「安全な空間」という言葉を多用していた。

 ペンシルバニア州パオリにあるパオリ長老教会で学生・青年奉仕部門のディレクターを務めるマディー・リッジウェイ氏は、「彼女のユースグループの学生たちは仲が良く、お互いに 『おふざけ』をするのが心地よいと感じている」と語る。彼女は、「すべてにおいてベストでなければならない」というプレッシャーを感じず、楽しく過ごせる場を提供するのが好きだ。

 リッジウェイ氏は、10代の若者がユースグループで数分間居眠りすることもあり、彼らが十分な心地よさを感じていることを嬉しく思っていると言う。「私はあたかも神が彼らをそうするように招かれたと感じ、彼らを休ませる」

 ノンバイナリー(自身の性に男性女性の枠組みをはめない)やLGBTQ+の学生も、同様に扱われると感じられる必要がある。修養会では、寝室や浴室を別にしたいという要望があれば、「生徒が安心して過ごせるように、できる限りのことをする」とリッジウェイ氏は言う。

 「どんな形であれ、彼らの世話をすること、彼らの安全を守ること、そして正直なところ、時には彼らを生かすこと」を第一の目標としている。私たちはそれが過程であることは承知している」とビショップ氏。彼は10代の若者たちに、信頼できるアドバイザーを3~5人持つべきだと話す。彼自身、メンタルヘルスの専門家を含むネットワークを持っているという。

 多くの有色人種の若者が経験する人種差別や偏見は、精神的な症状を悪化させると「Springtide」のレポート「Navigating Injustice」は指摘する。宗教への結びつきがかつてないほど希薄になる中、有色人種の若者の幸福を綿密に調査したこの報告書の著者で社会学者のナビル・チューム氏は、次のように述べる。

 「彼らの中には、自分たちの集会や地域社会にポジティブな変化をもたらそうとする活動家に出口を見出す人もいる」

 ニュージャージー州バウンドブルックの聖ジョセフ・カトリック・コミュニティは、ラテン系とアングロ系の混成教区で、正義と奉仕のプロジェクトを通じて若者を力づけることを試みる「ネクストレベル」に参加する州内七つのカトリック教区の一つである。プログラムのメンターでソーシャルワーカーでもあるヴァレリア・モラレス氏は、2021年の参加者へのアンケートで、多くの人が「情熱のプロジェクト」を精神衛生につなげたいと答えたと言う。

 黒人やラテン系の10代は、メンタルヘルスに対処するとなると、より高い負担を背負うことになる。モラレス氏は、「私たちのコミュニティには、メンタルヘルスに関してこのような汚点がある」と言う。「メンタルヘルスに悩んでいる人は、弱い人だ」という考え方が、まだ確実に残っている。

  自分たちのトラウマに耐えた大人の移民は、ファーストジェネレーション(外国で生まれて帰化した移民の子)のヤングアダルトの苦悩を見て、「あなたが話しているような悩みは? 乗り越えろ」と言われることもあると彼女は言う。

 ニュージャージー州ウェスト・コリングスウッドにあるベトナム人とアングロ人の混成教会、モスト・プレシャス・ブラッド・パリッシュで「ネクストレベル」のメンターを務める薬剤師のタム・グエンは、アメリカに来て長い両親でさえ「とても支配的」だと言う。英語を母国語とする若者たちは、より自由を切望している。

 何人かの青年牧師や指導者は、10代の若者が精神的な不調を訴えた時、両親を巻き込むことで責任を共有することもできると述べている。リッジウェイ氏は、「私たちはパズルの一部ではあるが、全体ではない」と言う。

 多くの大人よりも仲間を信頼しやすいティーンエイジャーは、文化の壁を越えて、より強いコミュニティ意識を育むことでメンタルヘルスを強化し、積極的に行動することを選ぶかもしれない。

 このことは、キリスト教信仰が提供するものの核心に触れるものであるとタリー氏は言う。「私たちにとって、イエスの弟子となることや信仰は、人間関係の中で体験するのが一番だ。そのただ中で、生徒や家族とともに歩み、さあ、私たちはみんな一緒にいるんだよと言うことには、かけがえのない価値があると思う」と彼は述べている。

(翻訳協力=中山信之)

UnsplashMelissa Askewが撮影した写真

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