【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『正統と異端 ヨーロッパ精神の底流』 堀米庸三

 Web限定の連載記事がスタートします! 新刊だけでなく長く読み継がれてきた名著を「再読」し、改めてその魅力を紹介するコーナー。どうぞご期待ください。

『正統と異端 ヨーロッパ精神の底流』(中公新書、1964年)http://amzn.asia/c4xbqoc

*画像は2013年刊の文庫版

 西洋中世史学者・樺山紘一は、本書の再版(中公文庫、2013)において解説している。「1960年代、いまだ西洋中世世界については、慣行的な理解法が蔓延していた。いわゆる中世暗黒説である。……自由と力動を欠く暗黒の中世。この伝統的中世観をくつがえすのは、当時にあっては、容易なわざではなかった。……本書がはたした役割は、きわめて大きい。中世世界にあふれるダイナミズムを適正に発掘する作業によってこそ、その変換は説得的なアピールを体現しえたのである」

 1210年の早春、「ある世界史的な出会い」があった。第176代ローマ教皇インノケンティウス3世とアッシジのフランチェスコの邂逅である。あまりにも有名で印象的な史実から始まる本書は、「グレゴリウス改革と秘蹟論争」の歴史と意義を論じて「十二、三世紀の宗教運動」を通り、再びインノケンティウス3世の宗教運動対策に帰ることで「中世における政治と宗教」の問題を解明しようとする。

「キリスト教の歴史にたえずついてまわる『正統と異端』の争いも、教義上の問題であるまえに、まず『神のもの』と『シーザーのもの』、いいかえれば宗教と政治の不可避的な相反と結合の関係から生まれたものである」

「およそ人間世界の事物で時空の制約をまぬかれうるものはない。……世界宗教の場合、その歴史にはたしかに他の歴史とは異なった客観性があるのであるが、しかしいかなる正統も異端もただ歴史的に形成されたものである、……今日七つとその数を限定されているカトリック教会の秘蹟(サクラメント)は、十二世紀半ばのペトルス=ロンバルドゥス以前には十幾つとも数十とも数えられていた」

 初版発行より50年以上を経ても、なお読む価値のある欧州中世史への招き。本書は「異端」ということばの意味と深み、信仰と教会の歴史性を知らしめる研究史に輝く記念碑的一冊である。ぜひ再読したい。

【本体705円+税】
【中央公論新社】978-4121000576

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