【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『ギリシャ正教会』 高橋保行

『ギリシャ正教』(講談社学術文庫、1980年) http://amzn.to/2ERv2E9

 ロシア帝国皇太子ニコライ(後のニコライ2世)へ、警備の警察官・津田三蔵が突然切りかかるという大津事件、また日露戦争がなければ東京以北には、正教会が根付いていたかもしれない。1891(明治24)年、1904(明治34)年のどちらも歴史の分岐点であった。正教会の日本での出発は不幸な出足だったといえよう。

 アガサ・クリスティ『オリエント急行』に言及して始まる本書は、日本では、まだまだ一般には広く知られているとは言えない正教会について、さまざまな側面から解説する入門書である。とはいえ、西方ラテン教会(カトリックとプロテスタント)との違いを含めて、かなり詳しく知ることができる。

 「ギリシャや、東欧を含むロシアの国柄、ビザンチン文化やイコンの美によって断片的に知られ、ドストエフスキイによって強く打ち出された思想にみられるギリシャ正教というキリスト教の全貌を明らかにしようと欲ばった願望から生まれ出たのが本書である」と著者も記す。

 まずローマ・カトリック教会との違い、ありがちな正教会への誤解を解きほぐすために、神父らの髭の意味、正教に基づくキリスト教文学の味わいについて語る。続けて、20世紀に至るまでの正教会の歩み、その流れを読者と共に追っていく。さらに儀礼についての解説が入り、歴史と儀礼によって生み出されたギリシャ正教の基本的な思想について紐解かれていく。

 日本ハリストス正教会が発行している「正教会の手引き」とあわせて読むとより理解が深まるだろう。奉神礼に参加したことがある人が読めば、あの甘美な経験の意味を改めて再発見するだろう。復活大祭に向けて、正教会に参加してみたい人には格好の案内となる。

 ロシア革命100年を超えた今、北方の隣人を理解するためにも再読したい。

【本体1,050円+税】
【講談社】978-4061585003

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