【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『ケルトの聖書物語』 松岡利次 編訳

『ケルトの聖書物語』(岩波書店、1999年)

 アイルランド文学研究の碩学である著者は、法政大学退職後も精力的に活動している。例えば2018年1月20日には、「中世アイルランドのキリスト教の特質を探る:『韻文詩篇』 Saltair na Rann (10世紀末)を読んで」と題して、日本アイルランド協会 文学研究会例会(立教大学池袋キャンパス )で発表している。

 「ケルト人は精神的で非合理的で詩的で夢想的でオカルト的である、……大地とともにあり、宇宙のリズムで生きていた、妖精の世界に遊んだ」という、ケルトの一般的印象は誤解だとして文献学的に確かな地点から、著者は異を唱える。

 「私は初期アイルランド文学がキリスト教的文化に包摂されるものであってもなお、そこに『ケルト的な何か』がありうる……アイルランド的徴候と呼ばれる文体である。例えば、註解を場所、時、作者の設定からはじめること、質問・答えの形で論を進めること、アイルランド語で書かれた物語によく使われる、問い掛けに『難しいことではない』と答えるフレーズが、ラテン語文章にもよく使われること、それになによりも列挙好きであることなどである。

 その他にも、アイルランド人学者の註解には、聖書の中の名前のない人物に名前をつけること、東方の三博士(マギ)の話を詳しく語ること、七大天使の名前を挙げること、七天を独特の表現法で描くこと、鳥が話す場面を書くことなどの特徴がみられる。ラテン語で書かれていてもアイルランド人特有の文体が残っているのだ」

 説教として語られた「聖ブレンダン伝」、詩篇を模した「韻文詩篇」、アイルランド特有の黙示録的宇宙論的文学として使徒ピリポの異名である「常新舌」、「キリスト誕生の夜の十七不思議」、「天の王国の悲しき二人」など九つを収録。

 「地獄変相を描くだけではなく、復活の目映い希望」を描くアイルランド修道院文学は、混迷きわまる21世紀だからこそ、再読したい1冊だ。

【本体2,800円+税】
【岩波書店】978-4000227025

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