【書評】 『しあわせの宗教学 ウェルビーイング研究の視座から』 櫻井義秀 編

 宗教へのコミットメントと「しあわせ」との関係はいかなるものか。本書では神社や寺院、教会、創価学会などの具体的な取り組みを、それぞれの領域を専門とする論者が論文の形式で執筆。巻末には山形県出身者である編者と、秋田県藤里町で孤立や自死と向きあう僧侶、袴田俊英との対談「人口減少時代における仏教の役割」が収録されている。

 一見、自由を謳歌するかに見える現代の日本人。神や仏に頼る必要も、普段はそれほど感じることはない。だが、人間関係の行き詰まりや見えない貧困のなかで孤立する時、孤独に押しつぶされた個人において、自由意志や自己決定は十全に働かない。

 本書では、例えばオレゴン州における尊厳死の事例が紹介される(「尊厳死は幸せな最期につながるか」片桐資津子)。自由と自律を重んじるかに見えるアメリカ人の尊厳死希望者でさえ、多くの場合、家族への負担や経済的見通しの暗さに背中を押される形で、尊厳死を選択せざるを得ないのである。そして何より尊厳死希望者は、すべてを自己決定せねばならない不安と闘いながら、処方された毒薬を前に葛藤する日々を送っているのである。

 宗教は人と人とをつなぐ。それは自由意志や自己決定権を奪うものではない。そうではなく、自己決定をより健全な仕方で、落ち着いて行うための準備を促す素地となるのである。宗教をとおして出会った人と普段から自由に語り合うなかで、他者を知り、自己を知る。そういうプロセスをとおして、成熟した「しあわせ」像も実を結ぶのかもしれない。

 「信仰を支えあう幸せ――『協働』牧会による多世代地域間交流」(川又俊則)、「孤立化社会における傾聴ボランティアの役割――止まり木と順送りの互助」(横山忠範)も教会が参照すべき視点。

【本体2,500円+税】
【法蔵館】9784831857033

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