【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『思いがけないところにおられる神』 フィリップ ヤンシー 著/斎藤登志子 訳

『思いがけないところにおられる神』(いのちのことば社、2002年)

 著者フィリップ・ヤンシーは、『神に失望したとき』『誰も書かなかったイエス』『誰も知らなかった恵み』『見えない神を捜し求めて』(いのちのことば社)など、特に福音派でよく知られ、訳されている作家である。米国福音派の中心的オピニオン誌「クリスチャニティ・トゥデイ」の編集主幹も務める。

 訳者・斎藤登志子は、教会成長理論のような楽観主義、また繁栄の福音に見られる勝利主義にまみれた米国福音派神学をふまえ、著者を評して「悩める感性」という。「世界最大のキリスト教国を自負するアメリカよりも、第三世界や旧共産圏の国々に真のキリスト者の姿を見いだした。また、神学校の教壇や牧師の書斎よりも、病人、貧困者、障碍者、あるいは囚人といった、この世で称賛される美徳や特権にもれた人々の中にこそ、神の真理は輝いていることを発見する。およそこの世では見向きもされない場所や人々の中に、神の恵みとあわれみが具現化されている。この逆説に満ちた皮肉な現実こそが『逆説の神学』である」

 ヤンシー作品の魅力は、福音派という枠内にとらわれない視野の広さと軽妙さにある。たとえば、本書収録の「太っ腹のひょうきん護教家」では、自身のダイエットに重ねて20世紀前半に英国でカトリックの立場から社会批評を行った作家・批評家G.K.チェスタトン(創元推理文庫ブラウン神父シリーズ著者)の体型と思想が、聖書中の預言者たちとヤンシー自身のダイエットに重ねて語られる。

 原著が書かれた95年から、すでに20年以上たち、アメリカ国内における福音派の立ち位置や現状は変化している。ヤンシーが福音派内部で「解放の神学」的に浮き彫りにした問いかけは、現在、バックラッシュとしてのトランプ政権誕生となり、ひとつの歴史的回答を得た。アメリカ福音主義左派の質感にふれるために再読したい1冊。

【本体1,300円+税】
【いのちのことば社】978-4264019770

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