【書評】 『六市と安子の〝小児園〟 日米中で孤児を救った父と娘』 大倉 直

 「ひどく傷つけられ障害を負わされた2歳前後の日本人幼女が、日系人権擁護団体の施設にあずけられた。便宜上女児は当施設の責任者にちなんで、グレイス・クスモトと名付けられた。(中略)幼女は7か月前、3人の日系人男性によりあるメキシコ人家庭にあずけられた。当初は2か月ごとに10ドル支払うことになっていたが、その3か月後、3人の日系人のうちのひとりからメキシコ人に『幼児の両親が亡くなったので子供をそのまま育ててくれ』という話があった。メキシコ人家庭には4人の子どもがいたが、うちひとりの女の子が日本人幼女の世話役になっていた。幼女はその女の子によって学校へ連れていかれ、日中はそこで放置されていた。必要な法的手続きを経たのち、この女児は正式に前述の団体に引き取られることになるであろう」

  1916年11月9日付の『ロサンゼルス・タイムズ』に掲載された、この小さな記事と偶然に出会った著者。「この記事について本を書いてはどうか」という知人の望みに答えて、記事の中に「日系人権擁護団体」と記された「小児園」を設立し、孤児救済に身をささげた楠本六市と、六市に引き取られて養女となり、のちに中国で「崑山中日小児園」を設立、孤児たちから「お母さん」と呼び慕われたグレイス・楠本安子の人生と業績を追う。

 明治時代、楠本六市青年がアメリカに移住した背景には、明治政府が推奨した海外移民(出稼ぎ)政策がある。仕事や豊かさを求めて海外に活路を求めた日本人たちは、夢見た生活とは正反対の生活を余儀なくされた。

 貧困、依存症、関係破綻した「写真結婚」夫婦、そして彼らに見捨てられた子どもたち。彼らの苦悩を背に奮闘する父・六市と、父から信仰と奉仕の心を受け継いだ娘・安子の働きに華やかさはないが、キリストの光が確かに見え、著者の胸の温度も2人を知るにつれ上がっていくのを感じる文章である。

【本体1800円+税】
【現代書館】978-4-7684-5803-7

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