【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 ハインリヒ・グレシュベック 著/C.A.コルネリウス 編/倉塚平 訳 『千年王国の惨劇』

『千年王国の惨劇――ミュンスター再洗礼派王国目撃録』(平凡社、2002年)

 言うまでもなく、宗教改革とは半千年紀前の1517年以降のルター派、改革派、英国国教会を中心に、欧州全域を巻き込んだあの熱情と知性の渦である。本書は、宗教改革の大波の中、一つの街で起きた暗部の報告である。1533年以降の再洗礼派は、当時の社会にとって大問題であった。闇の勢力と戦うために武装蜂起せよと呼びかけた革職人メルキオール・ホフマンの追従者らは、彼の逮捕後にミュンスターへと流れつく。当時のミュンスターは新旧両派の拮抗勢力圏内であり、寛容な宗教政策をとった街だった。

 「1543年二月末に出現し、翌35年6月の落城まで、帝国諸侯軍の包囲下で存続したミュンスター再洗礼派王国は、古今東西の千年王国運動の中でももっとも典型的に開花したものであった。そこでは政治、経済、家族、文化などあらゆる領域にわたって、文字どおり全面的な『変革』が行われた。

 既存の一切の制度は背神のシステムであるとしてこれを廃棄し、神の預言に基づいて、政治的にはヤン・マティアスのカリスマ的支配から発し、ヤン・フォン・ライデンのダヴィデ王朝樹立にいたる。経済的には貨幣も売買もギルドも廃止され、財産共有制(共同食堂、現物支給、貴金属・生活物資の供出摘発)が強行された。

 既存の一夫一婦制も解体され、悪名高き一夫多妻制がテロの恐怖のもとに実現された。『霊が肉となった。聖者は罪を犯すことはない』として、既存の道徳的規準も転倒される。聖書を除く一切の書物文書も焼却され、街路や出生児の名前もアルファベット順に変えられた」

 神の絶対的正義を身にまとう語りは必ず騙りとなる実例である。彼らは聖霊に酔うのではなく、改革という美名に酔いしれた加害者だった。世界各地で過激派の暴力が跋扈する現代だからこそ、歴史に学ぶために再読したい1冊だ。

【本体3,400円+税】
【平凡社】978-4582473452

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