【書評】 『宗教と現代がわかる本2016』 渡邊直樹責任編集

 2007年に刊行され、10冊目となる今回の特集は、「聖地・沖縄・戦争」。聖地の代表エルサレムについての考察、ようやく日本でも注目され始めた「ダークツーリズム」とは何か。沖縄戦の遺骨は日本兵と括られてきたが、その実態は誰なのかといった興味深い記事が連なる。

 中でも注目したいのが、佐藤啓介(南山大学准教授)、西村明(東京大学大学院准教授)、石川明人(桃山学院大学准教授)の3氏による「戦争と死について」の鼎談。「記念館や石碑は、我々の記憶や思いを上手くハードディスク化する仕組みとなっているのでは」という意見。「戦死者を英霊化または反戦のシンボルにすることなく、死者が語るような場面を作り出せるかが宗教の一つのモチーフでは」との提言。「慰霊の場などで、誰もが様々な感情を抱くことが許されるはずだが、特定の感情のみが望まれる現状。戦争責任とは謝罪と賠償ではなく、二度と繰り返さないという前向きの責任なのでは」「その時に気付かされる死者の声を引き受けて行くことが、宗教が示すことではないか」など、若い学者達の率直な意見交換は、この70年戦争の記憶についていかに多様な議論がされてこなかったかを物語る。

 今こそ「先の大戦」を柔軟かつ多様な視点で見直す好機。他に、「日本人のイスラーム受容」や「長崎におけるカトリックと宗教間交流」などの寄稿も。

【本体1600円+税】
【平凡社】9784582703504

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