【書評】『「私」を受け容れて生きる』父と母の娘  末盛千枝子 著

 「ダミアン神父像」で有名な彫刻家・舟越保武氏の長女である著者。詩人で彫刻家の高村光太郎氏に「女の子ならこの名前しか思いつけない」と、千枝子と命名された。
 長男一馬が幼いうちに亡くなったのを機に、船越家はカトリックに入信。その後の人生は神のご計画という言葉どおりに轍が回っていく。

 至光社での勤務を通し絵本に深い造形を得た著者は、世界を股にかけブックフェアで活躍、出版の仕事を始めて最初の著作が「ボローニャ国際児童図書展」でグランプリを受賞、IBBY(国際児童図書評議会)とも長い関わりをもつ。1998年のIBBYニューデリー大会で、美智子皇后の基調講演放映が決まると、そのビデオ録画の際は著者の働きも大きく、後日その講演内容は著者が立ち上げた「すえもりブックス」で出版された。
 一方で婚約者の死、長男の難病とスポーツ事故による障害、最初の夫の突然死、再婚相手の看取りと波乱は続く。岩手に越した翌年には東日本大震災に遭遇する。すぐさま「3・11絵本プロジェクトいわて」を立ち上げ、心を痛めた被災地の子供たちに絵本を届けた。常に神を見つめている人の、己の役割を察知する速さを思う。

 最終章「逝きし君ら」では死生観をこう語る。「私たちはみんな、一人の例外もなく、やがてはこの世を去っていく。そして心ならずも道半ばで先に逝った人たちのことを思って、『これでよかったのでしょうか』と問いながら生きて行くのだ」
 時系列が入り乱れ、また両の夫君とのなれ初めなど、冗長に感じるところもあるが、愛情を受けて育った人間はこうも己を信じて邁進することができるのかと感服至り。人々に愛され、神に愛された人の、温かな人生の軌跡。

【本体1600円+税】
【新潮社】978-4-10-340021-9

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