【書評】 『Q文書 訳文とテキスト・注解・修辞学的研究』 山田耕太

 福音書以前の、失われた福音書「Q文書」の邦訳が出版された。

 本書は、ドイツ語で「資料」を意味する「Quelle」の頭文字からとって「Q文書」と呼ばれる聖書資料の最新の研究成果であり、「研究の集大成ともいうべきQ文書のギリシア語オリジナルテキストを復元した日本語訳の最初の試みである。マルコ福音書よりも20年近く前に書かれたと想定される最古の『失われた福音書』とも言うべきテキストを日本語に訳して、イエスの思想の原点に近づく道を開きたい」――こう語る著者の意図は十分に成功し、日本の聖書読者に新しい広がりを与えたといえる。

 新約聖書学を少しでもかじったことのある読者なら本書の価値と著者の仕事への賛辞を惜しまないだろう。なぜなら「Q文書」研究の蓄積は、聖書学の歴史といっても良いからだ。

 聖書を読むなら誰でも聖書学の恩恵を受けている。緻密で徹底的な文献学的研究だけが原文を復元し、神のことばが差し示す世界をより鮮明な解像度で映し出すことができる。

 「本書は、新約聖書で最初の三福音書が書かれる際に、マルコ福音書と並んで、マタイ福音書とルカ福音書が共通に用いたイエスの言葉資料〝Q〟に関する研究である……Q文書の原初のテキストは残っていない。マタイ福音書とルカ福音書の重複する部分から、両者の共通部分を基にして、それぞれのマタイ的要素とルカ的要素を取り除いて、テキストの復元が試みられてきた。ヨーロッパと北アメリカでは、ハルナック以来の100年余りの研究成果が結晶して、2000年には『Q批評版』というQテキストの決定版が出版された」

 タイトルのとおり、訳文とテキストに注解も付いており、専門家から一般読者にいたるまで「Q文書」を知りたい人のニーズに応えた構成となっている。聖書本文の奥に、もう一歩踏み込みたい読者は必読、全国のミッション系大学と図書館、また神学校のみならず各教会の本棚で、聖書の横に置いておきたい1冊。

【本体7,100円+税】
【教文館】978-4-7642-7421-1

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